男子の本懐

城山三郎の筆による長編小説『男子の本懐』は、昭和初期の激動期を背景に、重要な経済政策を推進した政治家たちの生き様を描いた作品です。この小説は後にNHK総合テレビで単発ドラマとして制作され、高い評価を得ました。

本作は、1979年の3月から11月にかけて『週刊朝日』に連載され、読者に広く読まれました。連載終了後の1980年1月には、『城山三郎全集』の第一巻として新潮社から出版されたほか、新潮文庫にも収められ、多くの読者が手に取ることとなりました。物語の主軸となるのは、当時の内閣総理大臣であった濱口雄幸と、彼を支えた大蔵大臣の井上準之助の二人です。彼らが直面したのは、第一次世界大戦後の日本経済が抱える困難の中での「金解禁」という重大な課題でした。小説は、この政策の推進過程や、それに伴う様々な軋轢、政治的な駆け引きなどを丹念に描き出しており、単なる歴史物語にとどまらず、経済小説としての側面も強く持っています。

作品のタイトルである『男子の本懐』は、主人公の一人、濱口雄幸の壮絶な生き方に由来しています。濱口首相は、金解禁を含む様々な政策遂行中に凶弾に倒れるという悲劇に見舞われます。この狙撃事件で負った傷がもとで、後に命を落とすことになりますが、彼は以前から「殺されることがあっても男子の本懐である」という覚悟を示していました。この言葉に、自らの信念のために困難に立ち向かい、たとえ命を落とすことがあっても悔いはないという、一人の政治家としての強い意志が込められており、それが作品の題名に冠されています。

この力強い物語は、1981年1月4日にNHK総合テレビの「新春ドラマスペシャル」として映像化されました。2時間を超える長編ドラマとして放送され、多くの視聴者の感動を呼びました。主演の濱口雄幸役は北大路欣也が、そして井上準之助役は近藤正臣が演じ、歴史上の人物を見事に演じきりました。

主要キャストとして、濱口首相の妻・夏を檀ふみが、井上蔵相の妻・チヨを藤真利子がそれぞれ演じたほか、伊東四朗、佐野浅夫（小泉又次郎役）、森下愛子、勝野洋、田崎潤、吉田日出子、佐々木すみ江、竜崎勝（若槻礼次郎役）ら、実力派の俳優陣が多数出演しました。ドラマの制作は近藤晋、演出は村上佑二が担当し、脚本は主に山内久が手掛けました。音楽は湯浅譲二が担当し、東京コンサーツが演奏を務めるなど、優れたスタッフが集結して作品を支えました。また、作品のリアリティを高めるために、高知県高知市や大分県日田市、日本銀行、日本国有鉄道といった機関が撮影に協力しました。

テレビドラマ版『男子の本懐』は、その完成度の高さが評価され、第36回芸術祭において優秀賞を受賞しました。これは、原作小説の持つテーマ性や人物描写の深さと、それを映像として表現した制作陣、そして出演者たちの演技が一体となって高い評価を得たことを示しています。このドラマは、昭和史の一コマを描くとともに、信念を持って生きることの尊さを問いかける作品として、今なお記憶されています。

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