男性の肖像 (デューラー、プラド美術館)

アルブレヒト・デューラー『男性の肖像』

『男性の肖像』は、ドイツ・ルネサンスの巨匠アルブレヒト・デューラーが板に油彩で描いた肖像画であり、彼の代表作の一つとされています。作品は、画面右下部に制作年が記されていますが、最後の数字が判読困難なため、制作年を特定する上で議論が続いています。

作品の来歴

この作品は、1632年にニュルンベルク市からイングランド王チャールズ1世に贈られたとされています。しかし、チャールズ1世の処刑後、彼のコレクションが競売に付された際、デューラーの作品を購入したルイス・メンデス・デ・アロの記録には「自画像」と「画家の父の似姿」と記載されています。その後、ルイス・メンデス・デ・アロは1654年にこの2作品をスペイン王フェリペ4世に献上しました。現在、本作はマドリードのプラド美術館に所蔵されています。

制作年をめぐる議論

作品に記された制作年の最後の数字を「4」と解釈すると、1524年の制作となります。しかし、作品の様式は、デューラーが1521年まで滞在したネーデルラントで制作した肖像画、または帰郷後に制作した肖像画に類似しています。デューラーは初期には半身の肖像画を制作していましたが、1500年以降はその形式をほとんど用いていませんでした。例外的に、1519年の『皇帝マクシミリアン1世の肖像』や1520-1521年のネーデルラント滞在中の肖像画で見られるのみです。1522年以降は胸像のみを描いているため、1524年制作説は例外的なものとなります。

作品の特徴

本作は、事物の質感を捉えることに細心の注意が払われており、入念に仕上げられています。この点において、デューラーはネーデルラント滞在中にクエンティン・マサイスの作品から影響を受け、その作風を競おうとしていました。そのため、本作をネーデルラント滞在中、またはその直後のニュルンベルク帰郷後の作品と推測するのが妥当と考えられます。

デューラーが皇帝の肖像画家に選ばれたのは、モデルの身体的特徴だけでなく、その気質までも表現する卓越した観察眼があったからです。本作では、青みがかった暗色の背景に、人物の4分の3正面向きの姿が捉えられています。左からの光がモデルの顔と手を照らし、右側の背景に影を落としています。大きな帽子が、射抜くような視線とエネルギッシュな性格の人物の顔を際立たせています。鑑賞者の視線は、人物の手、特に左手にある巻物にも引きつけられます。この巻物は、彼の社会的地位を示すものです。

モデルについて

モデルについては諸説あり、贅沢な衣服や書類から、画家の庇護者ヨース・パンケルフト、または高位の役人ではないかと推測されています。候補としては、1522年に亡くなったニュルンベルク市議会議員のハンス・イムホフ、財務官ロルンツ・シュテルク、画家がアントウェルペン滞在時の家主ヨプスト・プランフェルトらの名前が挙げられています。

まとめ

『男性の肖像』は、デューラーの優れた描写力と、人物の内面まで捉えようとする姿勢が表れた傑作です。制作年やモデルについては諸説ありますが、デューラーの画業における重要な位置を占める作品であることに変わりはありません。

参考文献

『プラド美術館ガイドブック』、プラド美術館、2009年刊行、ISBN 978-84-8480-189-4

外部リンク

プラド美術館公式サイト、アルブレヒト・デューラー『男性の肖像』 (英語)

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