畑トンネル

畑トンネル

埼玉県飯能市、大河原および下畑地区の近くに位置する畑トンネルは、かつて東京都と埼玉県を結ぶ主要な幹線道路であった東京都道・埼玉県道28号青梅飯能線の旧道（現在の市道4-540-1号線）上に存在します。このトンネルは、岩盤をくりぬき、内部を丁寧に煉瓦で巻き立てる構造を採用した、埼玉県内で最初に建設された煉瓦巻トンネルであり、日本の近代における土木技術の発展を示す貴重な歴史遺産としてその価値が認められています。しかし、現在は安全上の懸念から立ち入りが厳しく制限されており、将来的な解体工事の可能性も示唆されています。

歴史

畑トンネル建設の構想は、19世紀の終わり、飯能と青梅間の経済的な連携をより強固にする目的から生まれました。1897年、当時の飯能町長と南高麗村長は、地域経済の活性化を目指し、埼玉県知事に対して県道補助となる新たな道路の建設を請願しました。計画は一度、日露戦争の影響により一時的に停滞せざるを得なくなりましたが、その後の情勢変化を経て、1908年に「飯能青梅道」として本格的な工事が開始されました。約2年間の工事期間を経て、当時の金額で3万8千円を超える費用が投じられ、1910年3月31日に無事竣工しました。このトンネルは、岩をくりぬき、煉瓦で内壁を構築するという、当時としては埼玉県内で初の試みとなる画期的な建造物でした。

完成後、畑トンネルを含むこの区間は長らく県道として機能し、両地域間の重要な交通路としての役割を果たしました。しかし、時代の進展とともに交通量は増加し、より効率的で安全な道路の必要性が高まりました。その結果、1987年12月24日に新しいバイパス道路（現在の東京都道・埼玉県道28号青梅飯能線）が開通し、これに伴い畑トンネルを通る旧道部分は県道から飯能市の管理する市道（市道4-540-1号線）へと移管されました。

市道化された後も、トンネルとその周辺では様々な問題が発生しました。1996年頃からは、近隣での不法投棄が頻繁に発生するようになり、これが原因で区間の一部が通行止め措置をとられることとなりました。さらに、1998年および1999年には大規模な大雨が連続して発生し、旧道の両端で土砂崩れが発生しました。これにより、車両が通行することは完全に不可能となりました。加えて、長い年月の使用や自然環境の影響によりトンネル自体の老朽化も進行し、安全な通行を保証できる道路としての機能を果たせなくなったことから、最終的に全区間が通行止めとなりました。この通行止め状態は、2022年現在に至るまで続いており、一般の立ち入りは禁止されています。

諸元と関連事項

畑トンネルは、全長78.3メートル、幅員4.07メートル、高さ3.9メートルの煉瓦巻構造を有しています。また、この歴史的なトンネルは、かつて人気アイドルグループAKB48のセカンドシングル「制服が邪魔をする」のミュージックビデオの撮影場所としても使用されたことがあり、一部ではそうした文化的な側面でも知られています。

現在、トンネル入口には安全確保のための柵が設置され、立ち入りは制限されています。近代の歴史を静かに物語るこの建造物の今後の動向が注目されています。

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