畢宿

畢宿（ひっしゅく）は、中国の古い天文学において用いられてきた、天球を区分する二十八宿（にじゅうはっしゅく）の一つです。天球上の太陽や月の通り道である黄道・白道付近を28のエリアに分割したもので、それぞれが特定の星座（星官）を基準として定められています。畢宿は、この二十八宿の中で特に西方を司る「西方白虎七宿（せいほうびゃっこしちしゅく）」と呼ばれる七つの宿の一つであり、その中の第五番目の宿と位置づけられています。日本の伝統的な和名では「雨降り星（あめふりぼし）」とも呼ばれ、その名前は古くから人々の生活や自然現象との関わりの中で親しまれてきました。

天文上の位置

畢宿の基準点、すなわち「距星（きょせい）」として定められているのは、おうし座のε（イプシロン）星です。この星を起点として、畢宿の領域が定められています。
また、畢宿の中心をなす「星官（せいかん）」、つまり中国の伝統的な星座としての「畢（ひっ）」は、特定された8つの星から構成されています。これらの星は、おうし座のε星のほか、48番星、δ（デルタ）星、γ（ガンマ）星、α（アルファ）星（アルデバラン）、θ1（シータワン）星、71番星、そしてλ（ラムダ）星です。これら8つの星は、現代の星座でいうおうし座の頭部やV字型の一部、あるいはその周辺に位置しており、比較的明るい星を含むため、夜空でも見つけやすい特徴を持っています。この8つの星官「畢」を中心とした広大な天区全体には、主体である「畢」を含む合計15個の「星官」が存在するとされています。これらの星官は、中国の伝統的な天文学において、それぞれが固有の名前と意味を持ち、様々な事象と関連付けられて考えられてきました。

暦注と意味合い

畢宿が夜空に見える時期や、暦の上で畢宿があたる日には、特定の事柄を行うのに吉とされている場合があります。伝統的な暦注（こよみちゅう）においては、畢宿の日は「示談（じだん）」、「解決（かいけつ）」、そして「橋架け（はしかけ）」が吉であると記されています。
「示談」や「解決」は、争いごとや問題を円満に収めること、長引く懸案に終止符を打つことなどを指します。畢宿の持つエネルギーが、物事を整理し、決着をつけるのに適していると考えられたのかもしれません。
また、「橋架け」は、単に物理的な橋を架けることだけでなく、人と人との間の縁を結ぶこと、途絶えていた関係を修復すること、異なるものを結び合わせることなど、幅広い意味合いで捉えられます。新たな関係性の構築や、失われた絆の回復、あるいは協力関係の樹立といった、繋がりに関する事柄に良い影響があるとされています。「雨降り星」という和名も、自然の恵みとしての雨が、乾いた大地を潤し、新たな生命を育む、つまりは滞っていたものを解消し、豊かな繋がりをもたらすイメージと重なる部分があるかもしれません。このように、畢宿は単なる天文学的な区分であるだけでなく、人々の生活や社会的な営み、さらには人間関係や問題解決といった事柄に影響を与える、象徴的な意味合いも持ち合わせていたと考えられます。

二十八宿の中での役割

畢宿は西方白虎七宿に属し、その守護神である白虎の威厳や力強さ、あるいは収穫や実りの時期と関連付けられることもあります。二十八宿はそれぞれが独自の性質や役割を持つとされており、畢宿もまた、その天文的な位置や暦注に見られる特性から、物事の区切りをつけたり、新たな繋がりを築いたりする上で重要な意味を持つ宿として認識されてきました。これらの考え方は、古代から現代に至るまで、占星術や日選びといった様々な形で人々の生活に影響を与えています。

もう一度検索