異獣

異獣の謎: 江戸時代に目撃された未確認生物

異獣（いじゅう）は、江戸時代の新潟県、かつての越後国魚沼郡で目撃された謎の生物に関する説話です。「猿に似ているが猿ではない」と表現されるこの生物は、地域の織物業者たちとの興味深いエピソードを伴っています。特に、鈴木牧之が1841年に著した『北越雪譜』には、異獣の出現に関する二つの記録が残されており、いずれもこの地域の特産品である縮（ちぢみ）を作る技術者たちに関わる内容となっています。

異獣の初めての目撃

異獣の初回の目撃は、夏の初めのことです。ある日、越後国魚沼郡堀内の問屋に勤める竹助という男が、約28キロ離れた十日町の問屋へ白縮を届けるために、荷物を背負って出発しました。道中の山中で一休みするために食事をとっている最中、谷間の根笹から異獣が姿を現しました。この生物は、猿に似ているものの、背丈は人間よりも大きく、長い毛が背中に垂れていました。
竹助はこの獣に焼飯を分け与えると、獣は嬉しそうに食べ始め、彼が帰り道にも弁当を分けてあげると約束すると、なんと獣は竹助の荷物を背負い、目の前を歩き始めました。これにより、竹助は苦労せずに山道を越えることができました。目的地の近くに来ると、獣は荷物を山に降ろし、猛スピードで走り去ってしまいました。この出来事は、数十年前のことであり、以降も山を通る者たちによって、しばしば目撃されるようになったといいます。

異獣と機織り名人

異獣が目撃されたもう一つの記録は、十日町市池谷に住む少年が14～15歳の頃の体験談として語っています。その少年の家には、高い腕前を持つ機織り名人の娘がいました。ある冬の日、家族全員が外出している間、彼女が一人で機織りをしていると、突然窓辺に異獣が現れました。驚く彼女は逃げようとしましたが、織機に結び付けられているため自由に動けず、そのまま異獣を見つめ続けました。しかし、異獣は攻撃の気配を見せず、竈の飯櫃をそれとなく見ていました。

彼女は頃の噂を思い出し、握り飯を2、3個作って与えると、異獣は満足そうにその場を去ったのです。この後、異獣は彼女が一人でいるときに再度現れ、飯をねだるようになりました。次第に彼女も異獣に慣れ、恐怖を感じなくなりました。

不思議な出来事がもたらした解決

そんなある日、高位な注文主から急ぎの縮の依頼が入り、彼女が作業を開始した矢先、月水（生理）が始まってしまいました。伝統的にこの状態では作業ができないため、納期に間に合わない可能性があり、家族全員が心配していました。その矢先、久しぶりに異獣が現れ、彼女に粟飯を与えながら、憂いを語りかけました。異獣は、急いで立ち去らずに何かを考えるような様子を見せてから去り、その後不思議なことに、彼女の月水が突然止まりました。驚きながらも急いで身を浄め、縮を完成させることができたのです。

父親がその品物を問屋に届けた頃、再び月水が始まりました。この一連の出来事を聞いた人々は、異獣が助けてくれたのだと感じ、不思議な実話として語られることとなりました。

異獣の存在は、時代を経てもなお多くの人々の興味を引き付け続けています。その魅力は、ただの伝承にとどまらず、地域の文化や歴史を反映した重要な要素として、後世に語り継がれています。

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