疑似有性生殖

擬似有性生殖とは

擬似有性生殖（ぎじゆうせいせいしょく）は、主に菌類に見られる特異な生殖現象です。従来の有性生殖においては、特定の生殖器官が形成され、細胞の接合や核の融合を通じて新たな個体が生成されます。しかし、擬似有性生殖では、こうした器官を必要とせず、栄養菌糸の中で同様の遺伝的プロセスが進行します。これは、通常の有性生殖が行われる過程を別の形で実現するものと考えられています。

擬似有性生殖の過程

菌類における基本的な有性生殖の流れは、まず核の融合による核の倍数化、その後の減数分裂を経て、胞子が形成されるというものです。擬似有性生殖では、これらの過程が栄養菌糸内で起こります。菌糸は、多細胞体に見えることがありますが、実際には隔壁に孔があり、核がその間を移動できるのです。

擬似有性生殖が始まる最初の状態は、同じ菌糸体の中に異なる二つの核が存在する「異核共存体」の形成です。この異核共存体は、様々な方法で生じることが知られています。主に考えられるのは、系統の異なる菌糸との融合や、同一菌糸内での核の突然変異です。

前者の方法では、他の株の菌糸と接触することで、相互に融合することがありますが、自然界では不和合性によってその機会は限られています。後者は、実験室内で観察されやすく、異核共存体の形成を助長する要因となります。こうした異核共存体は、片方の核が減少することもありますが、成長を続けて異性化を維持することも可能です。

核の融合と有性生殖の成立

異核共存体から派生する菌糸の中で、核が移動し、そこから二つの核が融合することで複相の核が形成されます。続いて、減数分裂が発生し、結局は通常の有性生殖と同様の結果とされます。この過程では、減数分裂が必ずしも典型的な形で行われるわけではなく、染色体が徐々に失われて単相核と同様になる場合もあります。

例えば、身近に存在するカビは、分生子を通じて無性的に繁殖しますが、その一方で適切な環境下では、有性生殖によって新たな遺伝的組み合わせを持つ個体を生成することがあります。アオカビなどの不完全菌も同様の理由で有性生殖を行っている可能性があり、その詳細はまだ十分に理解されていません。

擬似有性生殖の意義

興味深いことに、擬似有性生殖を行うと考えられる菌類の中には、完全に有性生殖を行わないものも存在するかもしれません。しかし、たとえ生殖器官が形成されなくても、擬似有性生殖によって有性生殖と同等の効果を得られる可能性があります。実験室では、このような過程が確認されており、核融合を引き起こすための化学物質を利用することも可能です。

ただし、この現象が自然界でも広く存在するかは明らかではありません。擬似有性生殖は、有性生殖を行う菌類でも発生することがあり、その研究は遺伝学における重要な課題の一つとされています。実際、擬似有性生殖はコウジカビ（Aspergillus nidulans）の研究を通じて初めて確認された現象ですが、そのために遺伝学的なモデルとしての用いられ方には制約が生じています。

参考文献

• - C.J. Alexopoulos, C.W. Mims, M. Blackwell, INTRODUCTORY MYCOLOGY 4th edition, 1996, John Wiley & Sons, Inc.

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