疣贅状表皮発育異常症

疣贅状表皮発育異常症（ゆうぜいじょうひょうひはついくいじょうしょう）

疣贅状表皮発育異常症（Epidermodysplasia verruciformis）は、遺伝的な要因が関与すると考えられている極めて稀な皮膚疾患です。この病気の最大の特徴は、手足を中心に、樹木の皮のように硬く盛り上がったイボ（疣贅）が無数に発生し、進行すると広範囲を覆い尽くす点にあります。その外見から、俗に「ツリーマン症候群」あるいは「樹木男症候群」とも呼ばれます。世界的に見ても診断例は数例しか報告されていないとされる、非常に珍しい疾患です。

歴史と症例報告

疣贅状表皮発育異常症に関する記録は限られており、その希少性から、これまで詳細が明らかになっている症例はごくわずかです。

中でも広く知られているのは、バングラデシュの男性の事例です。この男性は、手足に巨大化したイボが著しく発生し、その総重量が5キログラムにも及んだと報じられました。彼はダッカ医科大学病院で集中的な治療を受け、少なくとも16回におよぶ外科手術によって大量のイボが除去されました。担当した医師団は、2017年中には完治を宣言できるとの見通しを示していましたが、残念ながら2018年1月には再びイボが生じ始めていることが伝えられ、この疾患の治療の難しさを浮き彫りにしました。

これまでの報告例は男性が主でしたが、2017年1月31日には、同じくバングラデシュの少女が、女性として初めてこの病気を発症した可能性が高いと報じられました。少女は2月7日に最初のイボ除去手術を受けましたが、その後の症状が悪化したと判断した父親が、それ以上の手術を拒否したため、イボの除去は完了しませんでした。この事例もまた、治療の継続が困難である場合があることを示唆しています。

比較的新しい事例としては、2021年にアメリカ合衆国ペンシルバニア州ピッツバーグに住む男性がこの病気にかかり、足に発生したイボに対する治療を受ける様子が、TLCというテレビチャンネルの番組で紹介されたことが挙げられます。これらの症例報告を通じて、この疾患の存在やその深刻な症状が世界に知られることとなりました。

原因と症状のメカニズム

疣贅状表皮発育異常症の発症には、特定のヒトパピローマウイルス（HPV）の感染が深く関わっています。具体的には、主にHPV 5型あるいはHPV 8型といった特定の種類のウイルスが、この疾患の原因となると考えられています。通常、ヒトの体はウイルスが侵入すると免疫システムが働き、ウイルスを排除するための抗体を産生しますが、この病気にかかる人々は、なんらかの理由でこれらの特定のHPV型に対する有効な免疫応答、特に抗体産生が不十分であるとされています。

免疫システムによるウイルスの制御がうまくいかない結果、ウイルス感染によって引き起こされる表皮細胞の異常増殖が抑制されず、イボが際限なく発育・進行します。このため、初期には小さなイボとして現れたものが、時間とともに肥大化し、数が増え、最終的には手や足の広範囲を厚く、硬いイボが覆い尽くす状態となります。この進行した状態の見た目が、まるで樹木の幹や枝のように見えることから、「ツリーマン症候群」という通称が付けられたのです。遺伝的な背景や、免疫機能の異常がどのようにウイルス感染の制御不全につながるのか、詳細なメカニズムについては現在も研究が進められている段階です。

関連項目

• - デデ・コサワ（バングラデシュの男性症例として関連が指摘されている人物）

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