ヒトパピローマウイルス

ヒトパピローマウイルス（HPV）

ヒトパピローマウイルス（HPV）は、パピローマウイルス科に属するDNAウイルスの一種です。別名、ヒト乳頭腫ウイルスとも呼ばれ、皮膚や粘膜にイボ（疣贅）を形成することで知られています。HPVは180種類以上もの型が存在し、その型によって引き起こす疾患や発癌リスクが異なります。

HPVの性質

HPVはエンベロープを持たない環状構造の二本鎖DNAウイルスで、正20面体のカプシド（殻）に覆われています。ゲノムサイズは約8,000塩基対で、初期遺伝子（E1～E7）と後期遺伝子（L1、L2）などから構成されます。特にE6とE7遺伝子が発癌に関与すると考えられており、p53やpRbなどの細胞周期制御に関わるタンパク質を不活化することで細胞の異常増殖を引き起こします。一方、E1とE2はウイルスゲノムの複製に関与し、L1とL2はカプシドタンパク質をコードしています。HPVは分化依存的に複製を行うため、細胞培養が困難なウイルスです。

HPVの種類と感染部位

HPVは感染部位や発癌リスクによって分類されます。

上皮型: 手足などにイボを引き起こす型（例: HPV1、5、8型）
粘膜型: 生殖器などに尖圭コンジローマを引き起こす型や、子宮頸癌などの発癌リスクが高い型（例: HPV6、11、16、18型）

発癌性に関しては、低リスク型と高リスク型に分類されます。低リスク型は尋常性疣贅などを引き起こしますが、高リスク型は子宮頸癌、外陰癌、肛門癌、咽頭癌などの発癌リスクを高めます。特にHPV16型は世界中で子宮頸癌の約50%を占めています。

HPVの感染と免疫

HPVは皮膚や粘膜の微小な傷から侵入し、接触感染します。感染した細胞を破壊せず、ウイルス粒子を大量に放出するため、免疫応答が誘導されにくく、多くの場合、感染後1～2年以内に自然に排除されます。しかし、免疫低下などによりウイルスが潜伏し、再活性化することもあります。また、生涯にわたる免疫記憶が形成されにくいため、再感染の可能性も高いです。母子感染も確認されており、出生時に感染した乳児もいます。

HPV検査

子宮頸癌のスクリーニング検査として、HPV DNA検査が用いられます。この検査は、子宮頸管から採取した細胞中のHPV DNAを検出し、高リスク型HPVへの感染の有無を調べます。高リスク型HPV陽性の場合、子宮頸癌の前癌病変であるCIN（子宮頸部異形成）の進展リスクが高いため、精密検査が必要になります。

HPV関連疾患

HPV感染は、様々な疾患を引き起こします。

尖圭コンジローマ: 生殖器などにできる鶏冠状のイボ。HPV6、11型が主な原因です。
子宮頸癌: 子宮頸癌の多くは高リスク型HPV感染が原因です。
疣贅: 皮膚にできるイボ。HPVの型によって形状や発生部位が異なります。
咽頭乳頭腫: 母親からの経産道感染により乳児の咽頭に発生する良性腫瘍。

HPVワクチン

HPVワクチンの目的は、HPV感染とその後の発癌を防ぐことです。2価ワクチン(Cervarix)、4価ワクチン(Gardasil)、9価ワクチン(Gardasil 9)があり、主に高リスク型HPVのL1タンパク質を用いて作られています。ワクチンは感染性はなく、安全性が確認されています。しかし、すべてのHPV型をカバーするわけではなく、ワクチン接種済みでも定期的な子宮頸癌検診は必要です。日本では2013年からHPVワクチンが定期接種となりましたが、副反応の問題により積極的な推奨が一時見送られ、2022年に再開されました。

まとめ

HPVは様々な疾患に関与するウイルスであり、感染経路、発症機序、予防法などの理解が重要です。HPVワクチンは効果的な予防策ですが、定期的な検診と併用することで、より効果的な予防が期待できます。

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