発震機構

発震機構とは

発震機構とは、地震が発生した際に、地下の断層がどのように動いたかを示す地震学の用語です。具体的には、断層の位置、方向、そして地震時の断層の動きを指します。このメカニズムをモデル化したものを発震機構解、またはメカニズム解と呼びます。

発震機構解の種類

発震機構解を求める方法には、主に2つの種類があります。

1. 初動発震機構解（初動解）：
複数の地震計で観測されたP波の初動（最初に到達する波）のデータを解析して算出します。
P波の初動が「押し」であるか「引き」であるかを判別し、観測点と震源の位置関係から断層面の方向を推定します。
比較的簡単に算出できるため、広く用いられます。
ただし、地震の規模を求めるためには別の方法が必要です。
観測点の分布に精度が依存し、遠方の地震では求めにくい場合があります。

2. セントロイド・モーメント・テンソル解（CMT解）：
長周期の地震波を解析して求めます。
セントロイド（断層のずれが最も大きかった部分）での発震機構を算出するため、より実態に近い結果が得られます。
断層運動の規模（モーメントマグニチュード）も算出できます。
規模の大きな地震で用いられることが多いです。
M4程度以下の小さな地震では算出が困難です。

断層パラメータ

発震機構解では、断層の動きを表現するために、以下の3つの要素を算出します。これらの要素を断層パラメータと呼びます。

1. 走向：
断層面と地表面が交わる線の方向を指します。
真北を0度として、時計回りに角度で表します。
断層面の右側が、走向を示す矢印の方向に位置するように示されます。

2. 傾斜角：
断層面と水平面がなす角度を指します。
水平面を0度とし、最大90度まで角度で表します。

3. すべり角：
断層面の上側の地盤が、下側の地盤に対してどのように滑ったかを示す角度です。
走向を0度として、反時計回りに角度で表します。

すべり角によって、断層の種類を判別することができます。

正断層：すべり角が270度付近の場合、横ずれ成分が少ない純粋な正断層となります。
逆断層：すべり角が90度付近の場合、横ずれ成分が少ない純粋な逆断層となります。
横ずれ断層：すべり角が0度または180度付近の場合、正逆成分が少ない純粋な横ずれ断層となります。

初動発震機構解の詳細

初動発震機構解は、P波の初動が「押し」であるか「引き」であるかを判別し、その分布から断層面を推定します。具体的には、以下の手順で求められます。

1. 各観測点でのP波初動の押し引きを判別します。
2. 観測点と震源の相対位置や速度構造を基に、射出角と方位角を求めます。
3. 球面に押し引きの分布を描画します。
4. 押しと引きの分布を分ける2つの直交する平面を求めます。

この2つの平面が、断層面の候補となります。初動解は、断層面を決定するためのものであり、地震の規模を求めるには別の解析が必要です。

初動解は1920年代から、地震の断層面を決定するための重要な手段として活用されてきました。しかし、正確な解を求めるためには多くの観測点での明瞭なP波初動波形が必要であり、観測点分布にも精度が左右されるという課題があります。

CMT解の詳細

CMT解は、セントロイド、モーメント、テンソルの3つの要素を同時に表現するもので、以下の3つの要素を解析します。

1. セントロイド (Centroid)：断層面内で最も運動量が大きかった地点を指します。
2. モーメント (Moment)：断層の面積と運動量を表す地震モーメント、またはモーメントマグニチュードを指します。
3. テンソル (Tensor)：断層の動いた方向を示す断層パラメータ（発震機構）を指します。

CMT解で推定される地震波の押し引き分布は、完全な四象限を示さない場合があり、推定された断層面とのずれが生じることがあります。このずれは非ダブルカップル成分比と呼ばれ、断層運動の複雑さや特殊性（火山性地震など）を推定する手がかりとなります。また、解析によって導き出された理論波形と観測波形の差は、バリアンスリダクション（VR）として評価され、CMT解の精度を示す指標として用いられます。

CMT解は、長周期の地震波を解析することで、地震の開始から終了まで全期間の断層の滑り具合を推定でき、その規模も算出できます。ただし、M4程度以上の地震でしか算出できません。

初動解とCMT解の比較

初動解は、P波の初動に着目して、断層面の方向を比較的容易に推定できます。しかし、地震の規模や詳細な断層運動を捉えるには限界があります。
CMT解は、長周期の地震波に着目して、より詳細な断層運動や地震規模を推定できます。しかし、算出にはより複雑な解析が必要で、M4程度以上の地震に限定されます。

近年では、情報通信技術の発展により、初動解を用いた迅速な地震種別の判別が可能になり、津波予報や防災に役立っています。

関連情報

断層
AQUAシステム

外部リンク

CMT解とは何か 気象庁
地震の基礎知識とその観測 3.2 発震機構解決定 防災科学技術研究所
発震機構 気象庁 - 日本周辺の初動解・CMT解
F-net 広帯域地震観測網 防災科学技術研究所 - 日本周辺の初動解・CMT解
Global Centroid Moment Tensor Project Global CMT - 世界のCMT解
Current USGS Fast Moment Tensor Solutions USGS - 世界の直近のCMT解（速報）
* Moment Tensor and Broadband Source Parameter Search USGS - 世界の過去のCMT解の検索

もう一度検索