白い町で

白い町で：リスボンの光と影、そして男の葛藤

1983年、アラン・タネール監督が手掛けた『白い町で』（Dans la ville blanche）は、スイス、ポルトガル、イギリスの合作映画として制作されました。ポルトガルの映画プロデューサー、パウロ・ブランコと、ヌーヴォー・シネマ・スイスで知られるタネール監督の共同企画、共同脚本による作品です。

物語の舞台は、白い町と呼ばれるポルトガルの首都リスボン。貨物船の乗組員であるポールは、8ミリカメラで撮影した映像を、スイスに住む妻エルザに送る習慣を持っています。リスボンで彼はバーで働くローザと出会い、意気投合します。ローザはホテルのメイドとして働いており、ポールはホテルに部屋を借りて生活を始めます。

ポールが撮影したフィルムと手紙がエルザに届きますが、そこにローザの存在が示唆されていることを受け、エルザは戸惑いと不安を感じ始めます。

ある夜、ポールは泥棒に襲われ、財布を奪われてしまいます。彼は腕時計を売って金策をしますが、その後、街で泥棒と遭遇し、ナイフで胸を刺されてしまいます。

病院で治療を受けた後、ホテルに戻ったポールは、ローザが既にリスボンを離れ、フランスへ去ったことを知ります。ローザの居場所は誰にも分かりません。

その後、ポールは妻エルザからの手紙を受け取ります。手紙には、「すぐに帰ってきて。そうでなければ、二度と帰らないで。」と綴られていました。

この手紙を受け取ったポールは、今までの人生を捨て、スイスに戻る列車に乗り込みます。列車の中で、ポールは二人の女性と出会います。そして、若い女性の美しさに彼の瞳はくっきりと映し出されます。

この映画は、リスボンの街並みを背景に、ポールの内面世界を丁寧に描いています。8ミリカメラを通して映し出される風景、そしてポールとローザの儚い交流は、観客の心に深く刻まれることでしょう。

映画は、1983年のベルリン国際映画祭で金熊賞にノミネートされ、コンペティション部門に出品されましたが、受賞は逃しました。しかし、フランスでの公開後、1984年にはセザール賞最優秀フランス語映画賞を受賞し、同年にはスペインのフォトグラマス・デ・プラタ最優秀外国映画賞も受賞するなど、高い評価を得ています。日本では1986年に公開されました。

キャストには、ブルーノ・ガンツ、テレサ・マドルーガ、ユリア・フォンダリンなどが出演。彼らの繊細な演技も、この映画の魅力をさらに高めています。

『白い町で』は、美しい映像と、心の揺れ動く人間ドラマを融合させた、忘れられない作品です。リスボンの街並み、ポールの葛藤、そしてローザとの出会いと別れを通して、人生の複雑さと脆さ、そしてそれでもなお続く人間の営みが、静かに、しかし力強く描かれています。この作品は、単なる恋愛映画という枠を超え、人間の存在そのものを問いかける、深く考えさせられる作品と言えるでしょう。

ロケーション撮影は、当時、ヴィム・ヴェンダース監督の『ことの次第』もロケが行われたリスボンで行われました。ブランコは『ことの次第』の製作にも携わっていたことから、この映画の制作背景にも興味深い点があります。

『白い町で』は、リスボンの街の美しさ、そして人間の心の奥底にある複雑な感情を鮮やかに描き出した、傑作と言えるでしょう。一度鑑賞したら、その余韻に長く浸ることができる、そんな映画です。

もう一度検索