アラン・タネール

アラン・タネール：スイスが生んだ独自の映画作家

1929年スイスに生まれ、2022年に92歳で亡くなったアラン・タネールは、スイスを代表する映画監督の一人です。経済学を専攻したジュネーヴ大学時代、映画への関心を深め、卒業後は英国映画協会に勤務。字幕作成や翻訳、フィルム・アーカイヴの業務に携わる中で、映画制作への道を歩み始めました。

1957年、クロード・ゴレッタとの共同監督作品である短編映画『ピカデリーの夜』で映画監督デビュー。この作品はヴェネツィア国際映画祭で賞を受賞し、高い評価を得ました。その後、フランスへ渡り、ヌーヴェルヴァーグの重要な作家たちと交流。しかし、パリの映画界の競争の激しさに嫌気が差し、スイスに帰国します。

1960年代から1968年にかけては、スイスのフランス語テレビ局TSRのために40本以上のドキュメンタリー映画を制作。1962年には、ミシェル・ステー、クロード・ゴレッタらと共に若手映画作家集団「グループ5」を結成しました。

1969年、初の長編映画『どうなってもシャルル』を発表。この作品はロカルノ国際映画祭で金豹賞を受賞し、タネールの名を世界に知らしめました。以降、長編映画制作を続け、美術批評家であり小説家でもあるジョン・バージャーとのコラボレーション作品も手がけました。代表作の一つである『ジョナスは2000年に25才になる』(1976年)では、バージャーとの共同作業により、独特の世界観を表現しています。

タネールは、俳優や脚本家など、自身の作品に携わるスタッフと長期的な関係を築いたことでも知られています。特に、撮影監督を務めたレナート・ベルタや、女優ミリアム・メジエールとは複数作品でタッグを組みました。メジエールはタネールの作品に頻繁に出演するだけでなく、脚本にも参加しています。

タネールの作品は、1980年代に日本でも紹介され、高い評価を得ました。アテネフランセ文化センターでの特集上映なども行われ、日本におけるヌーヴェルヴァーグ世代のスイス人作家としての地位を確立しました。

アラン・タネールの映画作品は、その独特な視覚表現と社会への鋭い洞察力で高く評価されています。政治や社会問題を正面から取り上げる作品もあれば、日常の出来事を静かに見つめる作品もあり、その多様な作品群は、今も多くの映画ファンを魅了し続けています。数々の国際映画祭での受賞歴からも、彼の作品がいかに高く評価されているかがわかります。彼の作品は、現代社会の問題を問いかけるだけでなく、映画表現の可能性を追求し続けた一人の巨匠の軌跡を映し出しています。

主なフィルモグラフィー

ピカデリーの夜 (1957)
どうなってもシャルル (1969)
サラマンドル (1971)
アフリカからの帰還 (1973)
世界の中心 (1974)
ジョナスは2000年に25才になる (1976)
メシドール (1979)
光年のかなた (1981)
白い町で (1983)
わが心の炎 (1987)
幻の女 (1987)
ローズヒルの女 (1989)
ロズモンドの話 (1996)
レクイエム (1998)

主な受賞歴

ロカルノ国際映画祭金豹賞 (『どうなってもシャルル』)
ベルリン国際映画祭OCIC賞 (『サラマンドル』『アフリカからの帰還』)
全米批評家協会賞脚本賞 (『ジョナスは2000年に25才になる』)
カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ (『光年のかなた』)
* セザール賞最優秀フランス語映画賞 (『白い町で』)

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