白銀大火

白銀大火（しろがねたいか）

白銀大火は、1961年（昭和36年）5月29日深夜に青森県八戸市白銀町で発生した、戦後八戸市における最大級の火災災害です。この火災は放火によって引き起こされ、折からの強風にあおられて急速に延焼し、甚大な被害をもたらしました。白銀町大火とも呼ばれます。

発生と延焼

1961年5月29日午後11時40分頃、八戸市白銀町大沢片平の水産加工業者の物置小屋付近から出火しました。この火災は放火が原因とされています。

発生当時、八戸市は台風4号から変化した温帯低気圧の影響下にあり、非常に強い風が吹いていました。八戸測候所の観測では、同日午後4時36分に最大瞬間風速37.4m/sを記録しており、これは当時の開所以来3番目に強い風でした。この強風に火があおられ、火災は白銀町から隣接する鮫地区へと瞬く間に拡大しました。

同日の市内では、建設中の八戸市立第三中学校が倒壊するなど、強風による建物被害が多発しており、八戸市は午後5時に暴風対策本部を設置していました。しかし、火災発生直前の午後11時29分に暴風警報が解除され、対策本部も解散された直後の出来事でした。この強風自体による死者は2名発生しています。

火災は5時間にわたって燃え続け、午前2時頃には風向きが東に変わったことで、延焼方向も変化しました。火勢は三島神社下から八戸線を越え、白銀中学校付近から八戸水産高校のグラウンドまで達する広範囲に及びました。出火場所から鮫にかけて、県道を挟んだ長さ約1500メートル、幅約200メートル、合計約30万平方メートルが焼失したと記録されています。

被害と拡大要因

この火災による被害は極めて甚大でした。住家・非住家を合わせて約700棟、約1000世帯が全焼し、4147人が被災しました。当時の損害額は約25億円に上り、これは現在の価値に換算すると100億円にも相当するとみられています。白銀町の全戸数のうち、約70%がこの火災で失われました。前年にチリ地震による津波被害を経験していた住民からは、燃え広がる様子が「火の津波」とも表現されました。当時の住民の証言として、火災の熱で自宅のお風呂が沸いたという壮絶な状況も伝えられています。

幸いなことに、この大規模火災による死者は一人も出ませんでした。これは、住民の避難行動や消防・関係者の懸命な活動によるものと考えられます。

被害がこれほど拡大した背景には、強風だけでなくいくつかの悪条件が重なったことが挙げられます。

1. 火災通報の遅れ: 出火時刻は午後11時40分頃とされていますが、最初の通報はそれから12分後の午後11時52分でした。これは、発見者や周囲の住民が初期消火よりも避難や家財の運び出しに追われたためとされます。通報したのは、暴風警報解除後に外出して火災に気づいた消防団員でした。
2. 初期消火の困難さ: 通報の遅れに加え、強風下での初期消火が困難であったこと。
3. 防火線の不足: 道路が狭いなどの理由から、効果的な防火帯を設けて消火活動を進めることが難しかったこと。

捜査と復興

鎮火後、八戸警察署は現場検証の結果から不審火と断定し、放火事件として捜査を開始しました。青森県警察本部も捜査員を派遣し、後に犯人は逮捕されています。犯人は私情のもつれから放火に至ったと供述したと伝えられています。

火災発生を受け、八戸市は国や県と連携して迅速な復興事業に着手しました。当時の八戸市議会議長や市長の尽力により、国の調査団派遣も円滑に進められました。復興計画は「燃えない街づくり」を基本理念とし、都市計画道路、計画街路、公園、緑地帯などがふんだんに取り入れられました。また、青森労災病院などの国公立病院や、八戸工業大学第一高等学校、光星学院高校、八戸北高校などの公私立高校が新設され、さらに理想的な住宅団地として白銀台団地や岬台団地が計画的に造成されるなど、街は著しく発展的に再建されました。これは、単に被災前と同じ街を造るのではなく、災害に強く、将来を見据えた都市基盤を整備する機会となりました。

その他

興味深いことに、この大火が発生する以前に、八戸市の消防長は東京大学の研究者から白銀地区の火災の危険性について「ここを整備すれば神戸以上の商業都市ができるが、火災になるとおっかない」と忠告を受けていたとされています。

また、白銀大火と同日の1961年5月29日には、岩手県田老町（現在の宮古市）でも「三陸大火」と呼ばれる大規模な火災が発生しています。一部の報道や資料では、白銀大火と三陸大火を混同したり、両者を総称して「三陸大火」と呼んだりする例も見られます。

これらの出来事は、自然災害と人為的な要因が複合的に影響し、地域社会に甚大な被害をもたらしうることを示しています。白銀大火からの復興は、その後の八戸市の都市計画や防災対策に大きな教訓を残しました。

（記述文字数: 約1370文字）

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