白鳥ドレス

ビョークの白鳥ドレス：ファッション史に残る衝撃

アイスランド出身のアーティスト、ビョークが2001年の第73回アカデミー賞授賞式で着用した「白鳥ドレス」は、ファッション史における最も記憶に残る一着と言えるでしょう。マケドニア人デザイナー、マラヤン・ペジョスキーによってデザインされたこのドレスは、文字通り白鳥を模したもので、ビョーク自身がレッドカーペット上で「産卵」を模倣するパフォーマンスも相まって、世界中の注目を集めました。

奇抜さと美しさの狭間で

ドレスは、首が絡みつくようなデザインで、白鳥の頭部が胸元に配置された全身タイツのような構造でした。エマニュエル・レヴィが評したように、「巨大な白鳥ドレス」は、その斬新さゆえに賛否両論を巻き起こしました。ファッション業界からは「その年のワーストドレッサー」と酷評される一方で、その独創性を評価する声も上がりました。ニューヨーカー紙は「全体としては好きだ」と評し、メリッサ・エスリッジもドレスを賞賛しました。

ビョーク自身は、メディアの過剰な報道に対し、「ただのドレスです」とコメント。しかし、その背景には、アルバム『ヴェスパタイン』のテーマである「冬」や「白い鳥」というイメージがあったことを明かしています。また、白鳥が象徴するロマンティックな要素や一夫一妻制への想いも、ドレスに込められていたようです。

時代を超えた影響

白鳥ドレスは、その後も様々な形でパロディ化され、その影響力を示しました。エレン・デジェネレスやケヴィン・ジェームズが模倣したほか、映画やテレビ番組でも数多く取り上げられました。アニメ『アーチャー』では、登場人物が酷似したドレスを着用しています。また、ネリー・ファータドのミュージックビデオにも登場するなど、ポップカルチャーにおけるアイコンとしての地位を確立しています。

2007年には、アカデミー賞のファッションショーでこのドレスを展示する計画がありましたが、ビョーク側の許可が得られず実現しませんでした。しかし、その話題性は衰えることなく、2008年にはイギリスのデパート、デベナムズが行った「最も象徴的なレッドカーペットドレス」投票で9位に選ばれています。2014年にはヴァレンティノがこのドレスを再解釈し、パリコレクションで発表。ファッションブロガーやソーシャルメディアで話題になりました。

ビョークの白鳥ドレスは、単なるファッションアイテムを超え、アート、パフォーマンス、そして自己表現の象徴として、今もなお語り継がれています。賛否両論を巻き起こしながらも、人々の記憶に深く刻まれたこのドレスは、ファッション史における重要なターニングポイントとして、その輝きを失うことはないでしょう。

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