百川敬仁

百川敬仁氏は、1948年生まれの日本の国文学者です。明治大学法学部教授を歴任し、東京大学文学部国文科卒業、同大学院修了という輝かしい経歴を持ちます。東京大学教養学部助手、国文学研究資料館助教授、明治大学助教授を経て教授に就任し、2012年に明治大学を退職しました。

氏の専門は日本近世文学であり、特に本居宣長に関する研究は高く評価されています。百川氏は「もののあはれ」という概念を、単なる美的な感傷にとどまらず、日本人の特有の精神構造として捉えています。それは、様々な苦悩や葛藤を、集団的な悲哀感の中で統合・解消していく独特の心性だと論じています。この解釈は、従来の「もののあはれ」観とは一線を画す、独自性と深みのある見解と言えるでしょう。

百川氏の研究対象は近世文学に留まりません。近代文学、とりわけ夢野久作の作品についても鋭い分析を行い、独自の解釈を提示しています。夢野久作の幻想的な世界観や作風を、当時の社会状況や作家の内面世界と関連付けて考察することで、作品の魅力を多角的に解き明かしています。

研究活動においては、数々の著書や論文を発表しています。主な著書には、『源氏物語』に関する解説書や、本居宣長を深く掘り下げた『内なる宣長』、異界をテーマにした『「物語」としての異界』、日本のエロティシズムを論じた『日本のエロティシズム』、夢野久作論である『夢野久作 方法としての異界』などがあります。これらの著作は、いずれも日本文学研究において重要な知見を提供するものであり、高い評価を得ています。

また、共著として『江戸文化の変容 十八世紀日本の経験』も発表しています。この著作では、18世紀日本の文化・社会構造を多角的に考察し、当時の状況を詳細に描いています。

論文においては、「前（プレ）源氏物語　或は文学的転位」、「源氏物語における演技問題の生成」、「近代能楽集－－『源氏供養』をめぐって－－」、「夢十夜」、「巫女論」「他界論」、「異界・物語・時間--読本にそくして」、「紫式部『源氏物語』私の知らない私」、「初めに異界ありき」、「八犬伝と二律背反」、「故郷とノスタルジア-日本近代の時間性について-」、「中世的なものから近世へ」、「武士道と＜もののあわれ＞-丸山真男「忠誠と反逆」をめぐって」、「日本心性史の試みーー古代・中世をめぐって」、「平田篤胤と<もののあわれ>」、「浮舟--＜死の練習＞としての物語」、「漢心とやまとごころ」、「丸山真男の「忠誠と反逆」と武士道」、「野坂昭如と三島由紀夫――言葉・行動・エロティシズム」など、多岐にわたるテーマを扱っています。これらの論文は、日本の文学や文化を多角的に分析し、新たな視点を与えてくれる貴重な資料となっています。

百川敬仁氏の研究は、日本文学、特に近世文学の理解を深める上で非常に重要な役割を果たしています。「もののあわれ」という概念への独自の解釈や、夢野久作作品論など、氏の研究業績は、今後も日本の文学研究において大きな影響を与え続けるでしょう。

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