百年目

上方落語の名作『百年目』：粋な遊び人と大旦那のドタバタ劇

『百年目』は、上方落語を代表する演目のひとつです。東京落語にも移植され、東西で楽しまれています。一説には、東西の演目が偶然にも同じ原話から生まれたともいわれています。桂米朝、桂小文治、桂小南、三遊亭圓生といった落語界の大看板がこぞって得意とした演目であることも、その人気と完成度の高さを物語っています。

物語の舞台：船場の商家

舞台は、大阪船場の繁盛する商家です。物語の中心人物は、店の番頭である次兵衛。普段は厳しく奉公人を叱りつける堅物として知られています。しかし、その裏の顔は、遊び好きで粋な人物。得意先への営業と称して店を抜け出し、着飾って屋形船に乗り込み、芸者衆を囲んで豪遊にふけるのです。

桜の満開の川面で

次兵衛の遊び場は、大川を桜の宮まで優雅に進む屋形船。満開の桜、川面に浮かぶ船、そして賑やかな船上での宴…。次兵衛は、この華やかな世界に身を浸し、日頃のストレスを解消します。

予想外の出会い

宴たけなわの頃、一行は船を下りて「目ン無い千鳥」という遊びを始めます。目隠しをして相手を捕まえるこの遊び中、なんと、次兵衛は店の主人である大旦那と鉢合わせしてしまいます。酔いつぶれた次兵衛は、大旦那を芸者と間違え、目隠しを外した瞬間、大旦那の顔を見て愕然とします。

酔いも覚める大失態

大旦那は、状況を察してそそくさと立ち去ります。一方、酔いが覚めた次兵衛は、自分のしたことに青ざめます。慌てて店に戻り、事情を聞くと、大旦那は医者を伴って花見に出かけていたとのこと。自分が捕まえたのは間違いなく大旦那だったと悟った次兵衛は、体調を崩して寝込んでしまいます。

大旦那の寛容

翌日、大旦那から呼び出された次兵衛は、クビを覚悟します。しかし、大旦那の反応は予想外でした。大旦那は、次兵衛の普段の勤勉さを褒め、奉公人にもゆとりを持たせるべきだ、と諭します。そして、不正をせずに自分の稼ぎで遊ぶなら惜しまず遊ぶべきであり、また、一緒に遊ぼうとも言ってくれます。

「百年目」の言葉

大旦那は、次兵衛に「あの時、『長らくご無沙汰しております』と言ったが、なぜそんな言い方をしたのか」と尋ねます。次兵衛は、「大旦那の顔を見て、『しまった、これは百年目だ』と思いました」と答えます。「百年目」とは、まさかこんなことが起こるとは予想だにしなかった、という意味です。この言葉が、演目のタイトルにもなっています。

奥深い芸

『百年目』は、『鴻池の犬』や『菊江の仏壇』などと同じく、船場の商家を舞台にした大ネタです。演じるには高度な技量と体力が必要とされ、多くの登場人物を演じ分け、さらに踊りなどの要素も含まれるため、演者にとって難易度の高い落語です。米朝も独演会で失敗したことがあるという逸話も残っています。登場人物の心情やそれぞれの関係性を繊細に表現し、笑いと人情を織り交ぜた、まさに落語の醍醐味を味わえる作品と言えるでしょう。

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