皆葎住吉神社

皆葎住吉神社

富山県の西南部、美しい山々に囲まれた南砺市の旧上平村皆葎集落に、皆葎住吉神社は静かにその姿を留めています。この神社の創建に関する詳細は明らかではありませんが、江戸時代中期の正徳2年（1712年）に作成された『五ヶ山村々神号之覚』という古文書の中にその名が確認できます。当時の記録には、「住吉大明神宮 北野村山伏海乗寺持分」と記されており、古くからこの地に鎮座し、地域の信仰を集めていたことがうかがえます。

現在の社殿は、大正4年（1915年）10月に再建された比較的新しい建物ですが、神社の境内には、後述する歴史ある奥殿が現存しています。年間を通して、地域の人々にとって大切な祭礼が執り行われています。春の訪れを告げる春季祭礼は、毎年4月22日と23日に行われ、秋の豊かな実りに感謝する秋季祭礼は、9月22日に催されます。

皆葎住神社奥殿

皆葎住吉神社の最も特筆すべき遺構は、南砺市の指定文化財にも認定されている奥殿です。この奥殿は、享保4年（1719年）に建造されたことが記録に残っています。当時の建築を担当したのは、氷見郡の大窪村にいた清右衛門という大工でした。

大窪村の大工は、天正15年（1587年）に前田家から土地を与えられ、石動山の諸堂再興に携わったことにその起源を持ちます。18世紀の初め頃には、石動山の主要な建造物の再建がおおよそ完了したため、彼らはその活動範囲を広げ、外部からの仕事も積極的に請け負うようになりました。五箇山地域での建築工事もその一つであり、皆葎住吉神社の奥殿は、大窪村の大工がこの地域で手掛けた仕事の中で、現存する最も古い事例の一つとして知られています。

奥殿の建築に関する貴重な史料として、「大工飯番回り札」という古文書が住吉神社に保管されています。この史料からは、当時の建築作業の様子が具体的に読み取れます。例えば、奥殿の建築工事は享保4年の正月24日から始まり、4月14日までの77日間かけて行われたこと、そして工事に携わった大工2名は、皆葎集落内の38軒の家々が順番に食事などの世話をしたことなどが詳細に記されています。これは、当時の地域社会における共同作業や大工の待遇を知る上で、非常に重要な情報源と言えます。

この歴史的な奥殿は、昭和45年10月1日には旧上平村の文化財に指定されました。その後、市町村合併により南砺市が誕生した後も、引き続き南砺市の指定文化財として、その価値が認められ、大切に保存されています。

皆葎住吉神社、特にその奥殿は、五箇山地域における建築技術の歴史や、地域社会と大工の関係を示す貴重な文化遺産として、今も静かにその存在感を放っています。

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