皮肉記号

皮肉表現のための記号：歴史と方法

文章における皮肉や嫌味を明確に表現する方法は古くから探求されてきました。標準的な記号が存在しないため、様々な記号や表現法が提案され、使用されてきました。本稿では、そうした歴史と方法を詳しく見ていきます。

古くから提案された皮肉記号

最も古く、そして広く知られている皮肉記号は、左右反転した疑問符「⸮」です。これは、1580年代にイギリスの印刷職人ヘンリー・デンハムによって提案されたパーコンテーション・ポイントと呼ばれ、修辞的疑問文（答えを必要としない疑問文）の終わりに用いられました。その後、19世紀にはベルギーの新聞出版者マルセリン・ジョバールやフランスの詩人アルカンタ・デ・ブラームも同様の記号を使用しています。彼らはこれをアイロニー・マークと呼び、皮肉や嫌味を表現するために用いました。

パーコンテーション・ポイントの詳細

パーコンテーション・ポイント「⸮」は、現代のUnicodeでは「反転疑問符」として登録されています。これは、回答を必要としない疑問文、つまり修辞的疑問文の後に用いられる記号として考案されました。現代の疑問符とは異なり、古代ローマの疑問符には、回答が必要な疑問文に用いられるものと、修辞的疑問文に用いられるものの2種類があったとされています。パーコンテーション・ポイントは後者にあたります。17世紀以降は使用されなくなりましたが、皮肉表現の記号として再注目されています。

アイロニー・マークの変遷

アイロニー・マークもまた、左右反転した疑問符に似た記号です。ジョバールは1841年にクリスマスツリーのような形状の矢印型のアイロニー・マークを提案し、その後、様々な感情表現にも拡張できることを示唆しました。アルカンタ・デ・ブラームは、1899年の著書で、より洗練されたデザインのアイロニー・マークを使用しています。

他にも、フランスの作家エルヴェ・バザンは、ギリシャ文字ψに点をつけたような記号を提案しており、様々なニュアンスを表現できる記号体系を考案しています。オランダの財団CPNBも独自のデザインのアイロニー・マークを発表しています。

その他の皮肉表現方法

皮肉を表現する方法は、記号だけにとどまりません。

逆イタリック体: イギリスのジャーナリスト、トム・ドライバーグは、皮肉を含む文章を通常のイタリック体とは異なるイタリック体で印刷することを提案しました。
皮肉の引用: これは、引用符を使って単語や文章を囲み、皮肉や嘲笑を込めた意味合いを伝える方法です。これは、いわゆる「エアクオート」によく似ています。
Temherte slaqî: エチオピア・セム諸語の一部では、逆感嘆符のような記号が皮肉や非現実的な文の終わりに使われます。
括弧付き感嘆符・疑問符: 非公式な場面では、疑問符や感嘆符を角括弧や丸括弧で囲んで皮肉を表現することがあります（例: Oh, really[?]）。
[チルダ]: 標準的なキーボードで容易に入力できるチルダを、他の記号の隣に配置して皮肉を表現する方法もあります。
インターネットスラング(/s): ウェブサイトRedditでは、HTMLタグ`...`を略した`/s`が皮肉を表すスラングとして広く使われています。

まとめ

皮肉表現のための記号や方法は、時代や文化によって多様化してきました。これらの方法を知ることで、文章表現の幅を広げ、より的確に意図を伝えることができるでしょう。Unicodeにおける符号位置や、現代におけるインターネットスラングまで含め、様々な方法を理解することが重要です。

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