盗賊 (小説)

小説『盗賊』について

概要

『盗賊』は、日本の作家三島由紀夫による長編小説であり、彼のキャリアの初めての長編作品です。全6章から成り、恋に破れた男女が互いの心の中で幻影を育む過程を描きつつ、悲劇的な結末へと導いていく物語です。三島はこの作品を通じて失恋の痛みや新たな出会いの背景に描かれる繊細な心情を表現しました。

執筆と発表

本作は1946年の正月に起筆され、1947年から1948年にかけてさまざまな雑誌に章ごとに発表されました。その後、1948年11月20日に『盗賊』として単行本が真光社より刊行されました。初版と文庫版の間には若干の相違があるものの、各章が独立した物語としても楽しむことができます。

あらすじ

物語は、1930年代の日本を舞台にしています。主人公・藤村明秀は、子爵の息子でありながら、大学国文科を卒業し、研究活動にいそしんでいます。ある夏、母親と共に志賀高原のホテルに滞在中、偶然にも母の旧友の娘である美子と出会います。明秀は彼女に一目惚れし、瞬く間に親しくなりますが、美子はその関係を真剣に考えていなかったため、彼らの関係は音もなく終わりを迎えます。

明秀は深く傷つき、彼女との連絡が途絶えた後、彼女を思い続けて夜ごとに自殺を考えるようになります。しかし、彼の運命は、松下侯爵家の社交倶楽部で出会った清子の存在によって変わることになります。清子もまた、失恋の痛手を抱えていたことで、彼らは運命的な出会いを果たすことができたのです。

ふたりは次第に互いに愛情を育てながらも、過去の苦しみを語り合い、深い結びつきを感じます。夏には軽井沢へ行き、楽しいひとときを過ごしますが、彼らの関係にはさまざまな障害が立ちはだかることになります。

悲劇的な結末

最後に、清子と明秀は結婚式の当夜に心中という悲惨な決断を下します。この結末により、彼らの周囲の人々は、カップルの死が幸福すぎたからこそ起こったことを深く理解することになります。そして、この小説のテーマは、愛と死という永遠の対立を中心に展開されており、三島が抱える悲しい精神状態と対比されています。

作品の背景と影響

『盗賊』は、三島由紀夫が個人的に抱えていた痛みや悲しみが色濃く反映されています。彼は、初恋の人との別れや愛する妹の死に向き合う中で、新たな視点を持ち込もうとしました。また、文体においては、フランスの作家レイモン・ラディゲの影響を受け、豊富な比喩と独特な表現技法を駆使しています。

この作品は当初、あまり評価されなかったものの、のちに三島作品の中でも重要な位置を占めるようになります。三島自身がこの作品を「第四の処女作」と称し、自身の成長を見つめるきっかけとなった一作であります。

評価と研究

文壇では『盗賊』に関する研究があまり進んでいない時期がありましたが、後に三島の作品の分析や評価がなされるようになり、文学史における重要性が見直されました。作家や批評家からは、その心理描写や文体に対する深い考察が進められ、現代においても多くの人々に読まれ続けています。

このように『盗賊』は、三島由紀夫の文学活動の中で欠かすことのできない作品として、今なお人々の心を惹きつけています。

もう一度検索