盛岡高等農林学校

盛岡高等農林学校（もりおかこうとうのうりんがっこう）

盛岡高等農林学校は、1902年（明治35年）に国の設置した旧制専門学校として岩手県盛岡市に開校しました。日本の官立高等農林学校としては先駆け的存在です。創立の大きな目的は、食糧の増産と農業技術の振興を担う専門家、すなわち農業技術者、農業教育に携わる教員、そして国の中堅技術官吏を育成することにありました。また、東北地方の経済・産業振興という国策の後押しもあり、この地に高等教育機関が置かれることとなりました。

開校当初は、本科として農学科、林学科、獣医学科の3つの専門課程が設けられました。その後、時代の要請に応じて農芸化学科や農業土木科なども増設されています。特に獣医学科が設置された背景には、軍隊が必要とする獣医を、官立の農業教育機関に委託して養成するという国の意向がありました。この影響もあり、戦前期に新設・増設された農林系の専門学校では、獣医学科が多く設置される傾向が見られました。

学校の設立に際しては、当時の農商務省山林局から広大な演習林が移管され、実践的な教育・研究環境が整えられました。1906年（明治39年）には最初の卒業生を送り出し、その進路は学校の設立目的を反映していました。農学科の卒業生は教員となる者が多く、林学科の卒業生は国の技術系官吏として林業の発展に貢献しました。

学校は様々な発展を遂げましたが、1919年（大正8年）頃からは、より高度な研究教育機関を目指して大学への昇格運動が活発化しました。しかし、国の政策として高等農林学校の増設が優先されたため、この昇格運動は実現しませんでした。

第二次世界大戦中の1944年（昭和19年）、学校は盛岡農林専門学校、略して盛岡農専と名前を改めました。終戦後、1947年（昭和22年）8月には昭和天皇の戦後巡幸の舞台ともなりました。校庭が盛岡市民の奉迎場となり、天皇陛下が校内をご視察になった際には、教授たちが当時の農業課題や研究成果について詳しく説明を申し上げたという記録が残っています。

戦後の大きな変化である学制改革においては、本校の処遇についても議論が交わされました。東北大学との合併も検討されましたが、最終的には国の定める「国立大学設置の11原則」に基づき、盛岡市にあった他の旧制専門学校、すなわち岩手師範学校、岩手青年師範学校、盛岡工業専門学校と統合されることになりました。

1949年（昭和24年）にこれらの学校を母体として新制岩手大学が発足すると、盛岡農林専門学校はその一部となり、農学、学芸、工学の3学部を持つ岩手大学の農学部として改組・継承されました。旧制の盛岡農林専門学校としての歴史は、1952年（昭和27年）3月に正式に幕を閉じました。

開校以来、学校は一貫して盛岡市上田の同じ校地で教育活動を行っており、その場所は現在の岩手大学農学部へと引き継がれています。創立当初から建つ本館は、今日では農業教育資料館として利用されており、その歴史的価値が認められ、1994年（平成6年）には国の重要文化財に指定されています。

卒業生たちの同窓会は「岩手大学農学部北水会」として活動を続けており、旧制時代の卒業生と新制大学の卒業生が共に会員となっています。著名な卒業生には、詩人・童話作家の宮沢賢治などがいます（詳細は岩手大学の人物一覧などを参照）。

盛岡高等農林学校は、日本の農業、林業、獣医学の発展に寄与し、特に東北地方の近代化を担う多くの人材を育成した重要な教育機関でした。その精神と歴史は、今日の岩手大学農学部に受け継がれています。

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