相撲場風景

上方落語の演目の一つに『相撲場風景』（別名『角力場風景』）があります。大入り満員の活気あふれる相撲会場を舞台に、観客たちの様々な騒動がコミカルに描かれる人気作品です。

演目のあらすじは、まず、熱狂的な観客が贔屓力士への応援に熱中する様子から始まります。握り飯を片手に力士の名前を叫ぶ観客、そのすぐ隣では空腹に耐えかねている観客がいます。しかし、ちょっとした勘違いから、前の観客が持っていた握り飯を自分のものと勘違いして食べてしまうというハプニングが発生します。

一方、別の席では、我慢の限界に達した観客が尿意に悩まされています。しかし、席を立つと席を取られてしまうため、身動きが取れない状況に陥ります。そこで、近くで寝ている見知らぬ男の一升瓶に目を付け、なんとその中に排尿してしまうという大胆な行動に出ます。当然、寝ている男は目を覚まし、目や鼻に染みる不快感を訴え、会場は大騒ぎとなります。

この『相撲場風景』は、もともとは別の演目『子ほり角力』の前半部だったものが、独立した演目として発展したものです。相撲観戦に熱中する人々の様子をユーモラスに描いた小品で、いわゆる「サゲ（落ち）」はなく、酒瓶に小便をした騒動で「大騒ぎ。相撲場風景でございます。」という言葉で幕を閉じます。

この演目は、四代目桂文枝と初代桂春輔によって「相撲の穴」として演じられていたものを、五代目桂文枝が受け継ぎ、六代目笑福亭松鶴が得意ネタとして大成させました。一升瓶に小便をするという大胆な場面は春輔、一升瓶が抜けなくなるという新たな展開は五代目文枝によるものです。笑いの要素が満載であるため、道頓堀角座などの大規模な会場で頻繁に上演されました。

松鶴自身も酒好きであったことから、酒にまつわる描写は特に得意としていました。特に、小便を飲もうとして悪戦苦闘する場面は、彼の代表的な芸として高い評価を得ています。下ネタを含む描写ではありますが、松鶴は軽妙洒脱な語り口で演じ、ドタバタ劇のような騒動のおかしさを際立たせていました。また、東京の八代目雷門助六も「こり相撲」という題名で同様の演目を披露していました。

なお、『相撲場風景』は、酒を巡る騒動を描いた『禁酒関所』と同様に、スカトロ的な要素を含む演目として知られています。しかし、その下品さとは裏腹に、登場人物たちの行動や観客の反応の描写の妙が、多くの観客を惹きつけてやまない人気の秘密と言えるでしょう。大衆の喜怒哀楽が凝縮された、まさに上方落語の粋が詰まった傑作です。

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