相笠昌義

相笠昌義は、1939年東京に生まれた日本の画家であり、洋画と版画の両分野で才能を発揮しています。東京芸術大学を卒業後、1960年代は版画やコラージュを中心に制作活動を展開しました。初期の作品では、文明や人間そのものへの嫌悪を風刺的に表現した「文明嫌悪症連作」が知られています。これは、雑誌から切り取ったイメージをコラージュし、それを元に版画を制作するという手法で、当時の社会に対する批判的な視点を示していました。

1970年代に入ると、相笠の作風は大きく変化し、油彩による具象表現へと移行します。この時期から、彼は人々の生活や日常の風景をテーマにした作品を数多く手掛けるようになります。「時間差計画」シリーズでは、時間という概念に翻弄される人々の姿を描き出し、その後、駅や公園、動物園といった都市空間における群衆の姿を捉えた「日常生活」シリーズへと発展します。これらの作品では、都会の一角で繰り広げられる何気ない日常の一場面を、独自の視点と卓越した観察眼でリアルに描き出し、その中にアイロニーとユーモアを込めて表現しています。

相笠の作品に特徴的なのは、「～をみる人」というタイトルのシリーズです。これは、1972年の「見る人」という作品から始まり、動物園で動物を眺める人々の姿や、有名な観光地を訪れる人々の姿を、多角的な視点から捉えています。これらの作品群は、鑑賞者に「見る」という行為そのものを意識させ、日常の中に潜む人間関係や社会の構造を問いかけるような深遠さを持ち合わせています。

相笠は、東京芸術大学で小磯良平に師事し、その才能は早くから認められていました。新人洋画家の登竜門である安井賞を受賞したことで、画壇での地位を確固たるものとしました。彼の作品は、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、東京都美術館など、国内外の数多くの美術館に収蔵されています。

また、相笠は人間を描くことを最も好み、家族や身近な人々、日常の生活を描くことは、現代を見つめるための唯一の方法だと語っています。彼の作品からは、人々の何気ない日常の中に潜む美しさや、社会の矛盾、そして人間存在の深淵さを感じ取ることができます。

さらに、相笠は昆虫収集というユニークな趣味を持っており、自宅兼アトリエには、壁一面の油彩画と並んで、1万匹を超える昆虫標本が展示されています。このコレクションは40年以上にわたり収集されたもので、彼の芸術への情熱と幅広い関心を示しています。

相笠昌義は、その作品を通して、現代社会を生きる人々の姿をリアルに描き出し、私たちの日常を見つめ直す機会を与えてくれる、重要な現代美術家の一人と言えるでしょう。

主な代表作品としては、「見る人」、「みる人」、「日常生活・地下鉄を待つ人」、「夜の駅」、「カラバンチェロの昼さがり」、「時間差計画・駅にて」などが挙げられます。これらの作品は、彼の作風の変遷と、日常生活への深い洞察力を示すものです。

相笠昌義は、1979年に芸術選奨新人賞を受賞し、1982年には安井賞を受賞しました。また、1979年には文化庁芸術家在外研修員としてスペインに1年間滞在しています。彼の功績は、数多くの個展やグループ展、出版物を通して広く知られており、日本の現代美術界において重要な位置を占めています。

相笠の作品は、見る人にさまざまな感情や思考を喚起させ、その卓越した描写力と独自の視点は、多くの人々を魅了し続けています。

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