安井賞

安井賞は、日本の洋画家である安井曾太郎の功績を讃え、1957年に創設された美術賞です。この賞は、新人洋画家の育成と現代美術の振興を目的とし、具象絵画の分野において優れた才能を発掘することを重視していました。その格式の高さから「画壇の芥川賞」とも呼ばれ、多くの画家にとって憧れの存在でした。

安井賞の設立は、1956年に開催された安井曾太郎の遺作展がきっかけとなっています。遺作展の成功を受け、委員会は美術賞の創設を決定し、翌1957年に財団法人安井會太郎記念会が設立されました。この記念会が、賞の選考や授与などの事業を担いました。

賞の選考方法は、広く一般から公募するのではなく、美術団体や美術評論家などの有識者からの推薦に基づいた作品を対象とするコンクール形式でした。推薦される作家の年齢制限は当初40歳以下でしたが、後に50歳以下に引き上げられました。選考委員の構成や推薦方法も時代によって変更が加えられ、より多様な視点からの評価を可能にするよう努められました。

安井賞の受賞作品は、原則として東京国立近代美術館（第31回まで）や横浜美術館（第32回以降）に収蔵され、後世にその業績を伝える役割も担っていました。

展覧会は当初「安井賞候補新人展」として開催されていましたが、第12回からは「安井賞展」と名称を変更しました。開催場所は、東京国立近代美術館、西武百貨店池袋店、西武美術館、セゾン美術館など、時代と共に変化しました。

安井賞は、その40年の歴史の中で、多くの優れた画家を輩出し、日本の現代美術の発展に大きく貢献しました。しかし、現代美術の多様化と複雑化が進む中で、具象絵画に特化したこの賞は、その役割を終えたとして、1997年の第40回展をもって終了しました。

受賞者一覧（一部）

第1回 - 第10回
第1回（1957年） - 田中岑「海辺」
第2回（1958年） - 野見山暁治「岩上の人」
第3回（1959年） - 中本達也「群れ」
第4回（1960年） - 深見隆「風化」
第5回（1961年） - 高橋秀「月の道」
第6回（1962年） - 近岡善次郎「巫女」
第7回（1963年） - 芝田米三「樹下群馬」
第8回（1964/65年） - 田口安男「かげとかげり」
第9回（1965/66年） - 西村功「ベンチの人々」
第10回（1966年） - 宮崎進「見世物芸人」

第11回 - 第20回
第11回（1967/68年） - 島田章三「母と子のスペース」
第12回（1969年） - 鴨居玲「静止した刻」
第13回（1970年） - 藤田吉香「春木萬華」
第14回（1971年） - 山本文彦「語りI」
第15回（1972年） - 中西勝「大地の聖母子」
第16回（1973年） - 谷本重義「二人老人」
第17回（1974年） - 絹谷幸二「アンセルモ氏の肖像」
第18回（1975年） - 八島正明「放課後」
第19回（1976年） - 三栖右嗣「老いる」
第20回（1977年） - 横尾茂「里のひろみとうちのはあちゃん」

第21回 - 第30回
第21回（1978年） - 上條陽子「玄黄・兆」
第22回（1979年） - 笹岡信彦「朝に翔んでいる」
第23回（1980年） - 堀江優「ペテロ」
第24回（1981年） - 有元利夫「室内楽」
第25回（1982年） - 相笠昌義「カラバンチェロの昼さがり」
第26回（1983年） - 大津英敏「KAORI」
第27回（1984年） - 小笠原宣「行」
第28回（1985年） - 櫃田伸也「風景断片」
第29回（1986年） - 遠藤彰子「遠い日」
第30回（1987年） - 小林一彦「MOVIN'OUT 86-A」

第31回 - 第40回
第31回（1988年） - 櫻井孝美「1986年/1987年夏」
第32回（1989年） - 福田美蘭「水曜日」
第33回（1990年） - 北久美子「無双植物園…Y」
第34回（1991年） - 藤田邦統「木製で出会う」
第35回（1992年） - 奥山民枝「山夢」
第36回（1993年） - 平岡靖弘「陸に上がった舟III」
第37回（1994年） - 本田希枝「漂流者」
第38回（1995年） - わたなべゆう「風土15」
第39回（1996年） - 小林裕児「夢酔」
第40回（1997年） - 柳田昭「水温む頃」

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