相馬泰三

相馬泰三は、1885年12月29日に新潟県中蒲原郡庄瀬村（現在の新潟市南区）で生まれました。本名を退蔵といい、小説家としての活動で知られています。

生い立ちと文学活動

1906年、早稲田大学英文科を中退した相馬は、「萬朝報」に入社し「婦人評論」の記者を務めました。その傍ら、「早稲田文学」に「地獄」などの小説を発表し、文壇での活動を始めます。1912年には、谷崎精二、葛西善蔵、広津和郎らとともに文芸同人誌『奇蹟』の創刊に参加し、1914年には「田舎医師の子」を発表、これが彼の出世作となりました。

1918年には、長編小説「荊棘の路」を発表しますが、この作品は『奇蹟』の仲間たちをモデルにしたもので、内容が事実と異なる点が多く、友人たちを茶化したとして問題になりました。小説内では、三浦半島の下浦を舞台に、秋庭俊彦を思わせる青年が田舎娘に恋をしているところ、広津和郎をモデルにした人物が現れて娘を奪い、青年を崖から突き落とすという、事実を大きく歪曲したものでした。

文壇からの離脱と農民運動

「荊棘の路」を巡る騒動の後、相馬は文壇から距離を置くようになり、故郷である越後で農民運動に携わります。この時期、彼は文学活動から一時的に離れ、社会運動に身を投じました。

紙芝居文化への貢献

1940年頃になると、相馬は印刷紙芝居会社「画劇報国社」の社長に就任し、加太こうじと協力して紙芝居の制作に取り組み始めます。晩年は、紙芝居文化の普及と向上に尽力しました。戦後、志賀直哉の「小僧の神様」を紙芝居にする許可を得るため熱海の志賀の元を訪れた際、広津和郎と再会したというエピソードも残っています。

主な著書

相馬泰三は、小説や童話、翻訳など、多岐にわたる作品を執筆しました。

六月 (1914)
桃太郎の妹 (1914)
夢と六月 (1918)
荊棘の路 (1918)
憧憬 (1919)
隣人 (1919)
愛慾の垢 (1922)
野の哄笑 (1922)
陽炎の空へ (1923)
象の御見舞 (1924)
新選相馬泰三集 (1929)
復活 カチユーシヤ物語 (1935)
米國の東亞野望史 (紙芝居, 1942)
げんきなこども (1947)
* アリババ物語 (1948)

また、翻訳作品として、ゴンチャロフの「オブローモフ」があります。

相馬泰三の文学的評価

相馬泰三の作品は、人間の内面や社会的な問題を鋭く描いており、当時の文学界に大きな影響を与えました。特に、初期の作品は、自然主義的な傾向を持ちながらも、独自の視点と表現で読者を魅了しました。しかし、「荊棘の路」における出来事のように、その作風は時に論争を巻き起こすこともありました。

相馬泰三の晩年

文壇を離れてからは、紙芝居という新たな分野でその才能を発揮し、子供たちに夢と希望を与えることに貢献しました。相馬泰三は、小説家としての活動だけでなく、紙芝居文化の普及に尽力した人物として、その名が記憶されるべきでしょう。

相馬泰三は1952年5月15日に生涯を閉じましたが、彼の文学作品や紙芝居文化への貢献は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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