相馬黒光

相馬黒光：中村屋を支えた女性

相馬黒光（そうま こっこう）は、明治9年（1876年）に生まれ、昭和30年（1955年）に没した女性です。彼女は、夫である相馬愛蔵（そうま あいぞう）とともに新宿中村屋を創業し、実業家、社会事業家として多岐にわたる活動を行いました。旧姓は星（ほし）、本名は良（りょう）といいます。サッカー日本代表の相馬勇紀（そうま ゆうき）は玄孫にあたります。

生い立ちと教育

黒光は旧仙台藩士の家に生まれました。幼少期には、祖父の死、姉の発狂、父の癌、弟の足の切断など、不幸が重なり、笑顔を見せない子供だったそうです。キリスト教に触れ、14歳で洗礼を受けました。小学校卒業後、ミッションスクールである宮城女学校（現・宮城学院中学校・高等学校）に進学しますが、学校の教育方針に反発し自主退学。その後、フェリス英和女学校（現・フェリス女学院中学校・高等学校）に転校しましたが、文学への関心から退学し、明治女学校に再入学。ここで、島崎藤村（しまざき とうそん）や国木田独歩（くにきだ どっぽ）といった文豪と交流し、文学への視野を広げました。黒光という号は、明治女学校の教頭から与えられたペンネームで、「溢れる才気を少し黒で隠しなさい」という意味が込められています。

結婚と中村屋創業

明治31年（1898年）に、キリスト教信者の養蚕事業家であった相馬愛蔵と結婚。しかし、養蚕業が体質に合わず、東京へ移り住むことになります。明治34年（1901年）には、夫とともに本郷にあった小さなパン屋「中村屋」を買い取り、経営を開始。クリームパンを発明するなど、事業を拡大しました。明治40年（1907年）には新宿へ移転し、大正時代には喫茶部を新設するなど、新たな展開を見せました。

文化サロンの形成と社会貢献

黒光は、中村屋を拠点に、芸術家や文化人と交流するサロンを築きました。荻原碌山（おぎわら ろくざん）、中村彝（なかむら つね）、高村光太郎（たかむら こうたろう）など、多くの芸術家を支援し、彼らの活動を支えました。また、インド独立運動の志士であるラース・ビハーリー・ボースをかくまい、保護するなど、国際的な支援活動も行いました。ロシアの亡命詩人、ワシーリー・エロシェンコを自宅に住まわせ、ロシア語を学ぶなど、文化交流にも尽力しました。

その他の活動

黒光は、岡田式静坐法（おかだしきせいざほう）を信仰し、10年間毎日欠かさず静坐会に出席しました。また、荻原碌山の作品『女』像は、黒光をモデルとしたものだと言われています。

晩年

夫の死後、昭和30年（1955年）に78歳で生涯を閉じました。墓所は多磨霊園にあります。

家族

黒光の家族は多岐にわたります。母方の祖父は漢学者であり、仙台藩の要職を務めました。父は婿養子で、県庁職員や会社員として働いていました。姉は精神を病み、弟は足を切断するなど、家族にも不幸が相次ぎました。夫の相馬愛蔵との間には、多くの子どもたちがおり、長女の俊子はラース・ビハーリー・ボースと結婚しました。養女として、佐々城信子（ささき のぶこ）と国木田独歩の娘である浦子（うらこ）を迎えました。陸軍大将の多田駿（ただ はやお）は、父方の従兄弟にあたります。

著書

黒光は、自伝『黙移（もくい）』をはじめ、『滴水録（てきすいろく）』、『穂高高原（ほたかこうげん）』、『広瀬川の畔（ひろせがわのほとり）』など、多くの著書を著しました。これらの作品を通して、彼女の思想や人生観を知ることができます。

相馬黒光は、激動の時代を生き抜き、実業家、社会事業家、文化人として、多岐にわたる分野で活躍しました。彼女の生き方は、現代を生きる私たちに多くの示唆を与えてくれます。

もう一度検索