県下名勝史蹟四十五佳選

県下名勝史蹟四十五佳選について

『県下名勝史蹟四十五佳選』は、1935年（昭和10年）に横浜貿易新報社（現在の神奈川新聞社の前身）が、創業45周年と新社長就任を記念して行った読者投票企画です。神奈川県下の名勝・史跡45箇所を選定するこの企画は、単なる人気投票に留まらず、地域活性化への強い意欲と、新聞社が地域社会に深く関わる姿勢を示すものでした。

選定の特徴

この選定の特徴は、村会や青年団などの地域団体が組織的に投票に参加したことです。その結果、従来から知られた名勝・史跡だけでなく、比較的新しい場所も多く選ばれることになりました。これは、地域住民が自分たちの地域の魅力を再認識し、積極的にアピールする機会になったと言えるでしょう。

選定された名勝・史跡

選定された45箇所の名勝・史跡の中でも、特に注目されるのが第1位に選ばれた石小屋です。天然の巨石が織りなす景観は、訪れる人々を魅了したと伝えられています。しかし、石小屋は後に宮ヶ瀬ダム建設により水没し、その姿を留めることはできません。この事実は、自然の美しさとともに、開発による変化を物語っています。

選外となった場所

惜しくも選外となったものの、得票数が多かった10箇所も公表されました。これらの場所も、地域住民にとっては大切な場所であり、選定を通じて注目を集めることとなりました。

選定の経緯

横浜貿易新報社は、この企画の目的を「隠れたる勝地讃ふべき史蹟を再検討して広く之を世に出す」こととしました。さらに、名勝・史跡が地域発展の原動力となることを期待し、「欲求するものは『世に出す機会』である」と述べています。投票は1935年9月5日から10月5日まで行われ、連日、新聞紙面で各地域の得票数が報じられました。投票を盛り上げるために、「宣戦の烽火挙り」など、戦況報道のようなセンセーショナルな見出しが用いられたのも特徴です。


組織的な投票活動は、各地で当選期成会や保勝会が結成されるきっかけとなりました。麻溝村では臨時の村会が招集され、宮ヶ瀬村では全村での新聞購読が決議されるなど、地域をあげての熱狂的な活動が見られました。総投票数は500万票に達したとされています。

顕彰事業

選定後には、俳句・川柳の募集、入選地の紹介記事掲載、記念標の造立など、様々な顕彰事業が行われました。俳句・川柳の募集では2万句を超える応募があり、入選作品は紙上で発表されました。また、選定地を巡る「祝賀訪問隊」が組織され、各地を訪問しました。


写真帖や絵葉書の作成も計画されましたが、実際には実現されませんでした。しかし、記念標は各地に設置され、現在でもその多くが残っています。

各地における活動

新聞報道以外にも、各地で熱心な活動が行われました。例えば、26位に選ばれた綱島温泉桃雲台では、地域の有力者である飯田助夫が積極的に活動しました。日記には、投票のために新聞を大量購入した記録が残っています。29位の若雷神社では祝賀会が開催され、記念写真も作製されました。また、45位の滝出現見合不動尊では、青年団が運動資金を調達し、組織的な投票活動を行いました。

まとめ

『県下名勝史蹟四十五佳選』は、単なる名勝・史跡の選定企画ではなく、地域住民の郷土愛を育み、地域活性化への意識を高める画期的な取り組みでした。選定から80年以上経った現在でも、記念標や当時の記録を通じて、その足跡を辿ることができます。

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