真実の口

ローマに伝わる神秘の石彫刻「真実の口」

イタリアのローマに存在する「真実の口（Bocca della Verità）」は、サンタ・マリア・イン・コスメディン教会の外壁に設置された巨大な円形の石の彫刻です。教会の正面入口に続く柱廊の奥で見ることができます。

この彫刻は、海神オーケアノス、あるいは別の海の神トリートーンの顔を模していると考えられています。その起源については諸説あり、古代ローマ時代にフォロ・ボアリオ地区の寺院内にあった集水器の覆いとして使われていた、とする説が有力です。歴史を経た石には、時の流れを感じさせる風合いが刻まれています。

偽りを見抜く古からの伝説

真実の口にまつわる最も有名な言い伝えは、「偽りの心を持つ者が口の中に手を入れると、手を抜く際にその手首を切り落とされる、あるいは手を噛み切られる、または手が抜けなくなる」というものです。この恐ろしい伝説は、人々の真実に対する畏れや、偽りへの戒めを表しているかのようです。

文化とメディアにおける広がり

真実の口が国際的にその名を知られることになった最大の要因は、1953年に公開されたアメリカ映画『ローマの休日』です。劇中、グレゴリー・ペック演じる新聞記者のジョーが、オードリー・ヘプバーン演じるアン王女を驚かせようと、この伝説を真似て口に手を入れた演技をし、抜けなくなったふりをするシーンがあります。この演出により、それまで一部で知られていた伝説と真実の口自体が、世界中の人々の間で一躍有名になりました。無垢な王女が、記者の悪ふざけを本気にして怯える姿は、多くの観客の心に刻まれました。

また、真実の口は娯楽の分野にも影響を与えています。イタリアでは、このモニュメントをモチーフにした業務用の占い機が製造されました。口の中にスキャナーが内蔵されており、利用者が手を入れると手相を読み取り、その結果がプリントアウトされるという仕組みです。日本語版も存在しますが、占い結果の音声はイタリア語のままであるというユニークな特徴があります。

ローマ市内の三越デパートにも真実の口の複製品が設置されており、特に日本からの観光客が記念撮影をする姿が頻繁に見られます。

日本各地に存在するレプリカ

真実の口の人気は海を越え、日本国内にも多くのレプリカが存在します。中には実物よりもかなり大きく作られているものもあります。

神奈川県小田原市：小田原駅前東通り商店街に設置されています。
大阪府大阪市：都島区の新京橋商店街入口にあるものが有名ですが、市内には他にも複数のレプリカが存在すると言われています。
大阪大学医学部附属病院：感染症対策として、利用促進のために玄関に設置された消毒装置の外観を真実の口にしたものが、期間限定で設置されたことがあります。
静岡県沼津市：獅子浜ビーチの海底にレプリカが沈められており、水中アトラクションとしてダイバーに人気を集めています。
東京都台東区：浅草ビューホテルに、イタリア政府観光局の協力のもと設置されたレプリカが飾られています。
沖縄県宜野座村：道の駅「ぎのざ」内にあります。2000年の九州・沖縄サミット開催時に来村したジュリアーノ・アマート首相を記念し、イタリア共和国と宜野座村の親善交流を願って設置されました。
東京都町田市：ホテル・アイリーンドナン町田にも設置されており、こちらは口から水を吐き出す仕掛けが施されています。
かつては東京都江東区の商業施設ヴィーナスフォート（閉館）にも設置されていました。

類似のモニュメント「地獄の口」

真実の口と同様に、口の形をした彫刻で有名なものに、イタリアのヴィテルボ郊外にある怪物公園（Parco dei Mostri）の「地獄の口」があります。こちらは人が中に入れるほどの巨大なサイズで、真実の口とは異なる不気味な雰囲気を放っています。

ローマの真実の口は、古代の歴史、神秘的な伝説、そして映画による影響が一体となり、時代を超えて多くの人々を魅了し続けるユニークな存在と言えるでしょう。

もう一度検索