眼角静脈

眼角静脈（がんかくじょうみゃく）

頭頸部に位置する重要な静脈の一つに、眼角静脈（がんかくじょうみゃく）があります。この静脈は、顔面の中央部、特に目の周囲と鼻の付け根にかけての領域を走行します。

形成と位置

眼角静脈の始まりは、額の前面の頭皮から血液を集めて下りてくる前頭静脈と、額や眼窩（目のくぼみ）の上部から流れ込む眼窩上静脈が合流することによって形成されます。これらの静脈は、それぞれ額や眼窩周囲の組織からの静脈血を受け持ち、眼角静脈の起始部を構成します。眼窩上静脈は、眼窩内を走行する上眼静脈とも連絡を持っています。

走行経路

形成された眼角静脈は、その後、鼻の付け根にあたる鼻根部を通り、顔面の中心線を斜めに下方向へと進んでいきます。この走行経路は、ちょうど目の内側の角（内眼角）の近くを通るため、「眼角静脈」という名前が付けられています。眼角静脈は比較的浅い位置を通り、外部からも触知できる場合があります。

他静脈との合流と終点

眼角静脈の走行途中では、鼻の側面にある鼻翼（小鼻）周辺の皮膚や組織から血液を集める外鼻静脈などが合流し、眼角静脈に流れ込みます。眼角静脈は、この走行を続け、眼窩の下面の縁、具体的には目の下側の骨の輪郭あたりに達する高さで、顔面全体の血液を集める主要な静脈の一つである前顔面静脈へと連続します。前顔面静脈は、顔面全体の静脈血を集めて最終的に内頸静脈へと注ぐ、顔面の主要な静脈です。これにより、眼角静脈が収集した血液は、前顔面静脈を介して下流へと運ばれます。

重要な吻合（バイパス）

さらに、眼角静脈は、解剖学的に非常に重要な特徴として、眼窩内を走行する上眼静脈とも連絡（吻合）しています。この連絡は、通常、鼻根部の近くを走行する鼻前頭静脈と呼ばれる比較的短い静脈枝を介して行われます。この吻合路は、顔面静脈系（眼角静脈から前顔面静脈へ）と、頭蓋骨内部に位置する硬膜静脈洞の一つである海綿静脈洞との間に、直接的な交通路を形成します。

解剖学的・臨床的重要性

この眼角静脈と上眼静脈、そして最終的に海綿静脈洞へと繋がる吻合経路は、臨床解剖学において非常に重要な意義を持ちます。通常、静脈には弁があり、血流の逆流を防いでいますが、顔面静脈系、特に眼角静脈や前顔面静脈の上部には弁が少ない、あるいは存在しないことが多く、この解剖学的特徴が血流の逆流を許容しやすい一因となります。

そのため、顔面の感染巣からの炎症性物質や細菌が、この吻合路を介して容易に頭蓋内に侵入しうるのです。海綿静脈洞は、脳の底部に位置し、視覚や顔面の運動・感覚に関わる重要な神経や、内頸動脈などの血管が近接しているため、その感染は視力障害、眼球運動障害、顔面麻痺、重症の場合には敗血症や髄膜炎、さらには脳膿瘍に至る可能性があり、非常に危険です。

このように、眼角静脈は、顔面の表層と頭蓋内の重要な構造を繋ぐ「危険なつながり」を持つ静脈として、臨床解剖学において特に注意喚起される部位の一つです。特に、眼や鼻の周囲、上唇を含む顔面の中心部、通称「危険三角」と呼ばれる領域の感染は、この眼角静脈とその吻合経路を通じて頭蓋内へ波及するリスクが高いため、この領域の取り扱いには十分な注意が必要です。眼角静脈の構造と機能の理解は、顔面および頭蓋内の病態を考える上で、非常に重要となります。

もう一度検索