瞼の母

『瞼の母』は長谷川伸による戯曲で、1930年に『騒人』に掲載された作品です。本作は、博徒・番場の忠太郎を主人公に、母恋しさからの心の旅を描いています。

あらすじ

物語は嘉永元年の春から始まります。主人公の忠太郎は若い博徒であり、金町の半次郎と共に武蔵の実家に逃げ込みます。彼は、襲撃を受けた後、敵討ちのためにやってきた飯岡の子分・喜八と七五郎と出会いますが、忠太郎が彼らを斬り倒します。そして、母を探し出すため江戸へ向かうことを決意します。

江戸の街で忠太郎は、息子と生き別れた三味線弾きの老婆に出会いますが、彼女は忠太郎の母ではありません。忠太郎は、自分の母を背負って歩く男を見つけて無性に羨ましさを感じる場面が描かれています。

ストーリーが進むにつれ、嘉永二年の秋、忠太郎は「水熊」という料理茶屋の前で再び物語の舞台となる出来事に関わります。茶屋の女主人・おはまとその娘・お登世との絡みにより、忠太郎は自分の母に関する手がかりを得ようとしますが、おはまは忠太郎が母だと言った時、息子が死んだと固執し、真実を認めようとしません。

忠太郎は、長年母のために貯めた金百両を提示しますが、おはまの反応は冷たく、落胆しながら茶屋を去ることになります。しかし、忠太郎の名が呼ばれる中、母と娘が彼を探し続ける場面は、彼の心の中の葛藤を際立たせます。

その後、忠太郎は夜明けの荒川堤で浪人・鳥羽田要助に襲われますが、彼を斬り倒します。おはまとお登世が呼ぶ声が聞こえる中、忠太郎は母に出会えないことに苦しみながらも、記憶の中の母の姿を感じようとします。彼は、目を閉じて過去の思い出を思索し、「母の顔」を想い描くことで自分のアイデンティティを再確認します。

物語は、忠太郎がまた旅に出る決意をするところでクライマックスを迎えます。彼は「こう上下の瞼を合せ」と心の中で語りながら、母を想いつつ先へ進むのです。

登場人物

• - 番場の忠太郎: 旅姿の博徒で、母を捜し続けます。
• - おはま: 「水熊」の女主人で忠太郎の母。
• - お登世: おはまの娘。
• - 素盲の金五郎: 複雑な背景を抱える無頼漢。
• - 鳥羽田要助: 武芸の心得がある浪人。
• - おとら: 若いころはおはまと親しい関係にあった老婆。

影響とメディア展開

この戯曲は、長年にわたり多くの舞台や映画、テレビドラマとして製作され、日本の文化に大きな影響を与えています。最初の舞台上演は1931年で、それ以降もさまざまな形でリメイクされ続けており、現代においてもその名は広く知られています。

また、忠太郎を題材にした作品や、楽曲化されたものも多岐にわたります。特に浪曲や歌謡曲としての表現は、作品の深い感情を多くの人々に伝えています。

象徴的な存在

主人公の銅像は、日本の米原市に設置されており、地域の象徴として親しまれています。また、関連する祭りも催されており、作中のテーマである家族の絆が周囲の文化にも影響を与えています。

結論

『瞼の母』は母を想う息子の心情を見事に描写した作品であり、長谷川伸の才能が光る戯曲として評価されています。その普遍的なテーマは、過去から現在に至るまで、多くの人々の心に響き続けています。

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