知的所有権の貿易関連の側面に関する協定

知的所有権の貿易関連の側面に関する協定（TRIPS協定）詳解

1994年、世界貿易機関（WTO）設立マラケシュ協定の一部として誕生したTRIPS協定は、国際貿易における知的財産権保護のあり方を規定する重要な条約です。本協定は、国際的な商品・サービス取引増加に伴い増加した偽ブランドや海賊版といった問題への対応として、既存の知的財産保護条約を補完・強化する役割を担っています。

TRIPS協定成立までの経緯

1980年代以降、知的財産を伴う国際貿易は急増しました。しかし、同時に模倣品や海賊版の流通も拡大し、国際貿易に深刻な損害を与える事態となりました。既存のパリ条約（工業所有権）やベルヌ条約（文学・美術的著作物）は知的財産の保護自体は規定していましたが、権利行使（エンフォースメント）に関する規定が不足していました。また、世界知的所有権機関（WIPO）においては、先進国と途上国の対立が激しく、既存条約の改正による国際的な調和は困難でした。

この状況を打破するため、GATTウルグアイ・ラウンド交渉において、WIPOとは別にTRIPS協定が締結されました。これは、国際貿易の枠組みの中で知的財産権保護を強化する画期的な試みでした。

TRIPS協定の概要

TRIPS協定は、パリ条約やベルヌ条約の主要条項を遵守することを義務付ける一方で、特許権の存続期間などについては、それらを超える保護（パリ・プラス、ベルヌ・プラス）を求めています。また、従来の条約では規定されていなかった「最恵国待遇」を導入し、加盟国間の公平な競争環境を整備しました。

特筆すべきは、条約として初めて知的財産権の権利行使（エンフォースメント）に関する詳細な規定を設けた点です。これにより、知的財産権侵害に対する効果的な対策が可能となりました。さらに、地理的表示についても規定し、原産地を特定する表示の保護を強化しています。

TRIPS協定の課題と対応

TRIPS協定は、生物多様性条約（CBD）成立後にもかかわらず、生物多様性に関する規定を欠いているため、先進国と途上国との間で意見の相違が生じています。途上国は生物資源の出所開示要件の導入などを求めていますが、先進国は協定改正に反対する姿勢を示しています。

また、医薬品特許制度の導入は、途上国における医薬品の高価格化や輸入制限につながり、感染症蔓延を招くとの批判もあります。TRIPS協定第31条は強制実施許諾を認めていますが、その条件が厳しいため、途上国にとって十分な解決策とはなっていません。

この問題に対して、2001年のドーハ宣言では、公衆衛生上の緊急事態を考慮した柔軟な対応が認められました。2003年には強制実施権による医薬品の製造と、製造能力のない途上国への輸出が認められる「決定」が採択され、2005年にはTRIPS協定自体も改正されました。しかし、この改正の発効には時間がかかり、2017年1月23日に発効したものの、未だに未受諾国が存在し、受諾期限は2025年12月31日まで延長されています。

まとめ

TRIPS協定は、国際貿易における知的財産権保護の重要な枠組みですが、生物多様性や医薬品アクセスといった課題も抱えています。これらの課題への対応は、国際社会全体の努力が必要不可欠であり、今後も継続的な議論と改善が求められます。 今後の発展と課題解決に向けた取り組みが、国際社会全体の利益に繋がるでしょう。

もう一度検索