短距離弾道ミサイル

短距離弾道ミサイル：概要、歴史、そして現状

概要

短距離弾道ミサイル（SRBM）とは、その名の通り射程が概ね1000キロメートル以下の弾道ミサイルです。準中距離弾道ミサイルとの明確な境界線はなく、射程の長さで区別されるのが一般的です。しかし、核弾頭を搭載するもののうち、射程500キロメートル以下のものは戦術核兵器、500キロメートルを超えるものは中距離核戦力全廃条約の対象となり、それぞれ異なる核軍縮条約による規制や廃棄が進められています。

SRBMの大きな特徴は、その発射から着弾までの時間と運用形態です。発射軌道によって異なりますが、低軌道では5～6分、高軌道では10分ほどで目標に到達します。多くのSRBMは車両に搭載され、その車両自体が発射台となる移動式で運用されます。そのため、大陸間弾道ミサイルのような巨大なサイロや発射台は不要であり、コストを抑え、運用も簡便です。この機動性によって発射地点を隠蔽し、生存性を高めることも可能です。

搭載できる弾頭も多様性に富みます。高性能炸薬弾頭はもちろん、核弾頭、化学兵器、中性子爆弾などのNBC兵器、クラスター爆弾、燃料気化爆弾なども搭載可能です。

ミサイルのサイズも様々です。例えば、V2ロケットを開発したヴェルナー・フォン・ブラウン博士が関わったアメリカ製のPGM-11 レッドストーンは、射程320キロメートル、全長21メートルでした。一方、JPLが開発したWACコーポラルを元に開発されたMGM-5 コーポラルは射程100キロメートル前後、全長14メートルと小型でした。アメリカはその後、小型化を進め、MGM-52 ランスでは射程125キロメートル、全長6メートルに、非核弾頭のMGM-140 ATACMS|MGM-140_ATACMSでは射程165キロメートル、全長4メートルにまで小型化しました。対照的にソ連は、スカッドミサイルをベースに射程の延長を優先し、スカッドA（射程130キロメートル）からスカッドD（射程700キロメートル）へと発展させました。この違いは、東西のミサイル開発思想の違いを如実に表しています。

歴史

SRBMの起源は、ナチス・ドイツが開発したV2ロケットに遡ります。V2ロケットの射程は約300キロメートルで、当時はそれ以上の射程を持つミサイルはありませんでした。そのため、距離による分類はなく、単に「戦術地対地ミサイル」などと呼ばれていました。現在の分類ではSRBMに該当します。

V2ロケットの技術を基に、アメリカ軍はMGM-5 コーポラルやMGM-29 サージェントを開発しました。これらのミサイルも当初は「戦術地対地ミサイル」と呼ばれており、最大射程は100キロメートル程度でした。「弾道ミサイル」という用語が広まったのは、PGM-11 レッドストーンの配備後です。そのため、アメリカ初の弾道ミサイルはレッドストーンと思われがちですが、1952年に実戦配備されたコーポラルも、発射後の飛行特性から見ると弾道ミサイルに分類されます。ソ連でも、V2ロケットを元にR-1（SS-1A、射程270キロメートル）やR-2（SS-2、射程600キロメートル）を開発しました。

冷戦時代には、NATO諸国とワルシャワ条約機構加盟国との国境地帯で、両陣営が多数のSRBMを配備し、戦術核攻撃への備えとしていました。1991年の湾岸戦争では、イラク軍のスカッド改良型「アル・フセイン」が使用され、アメリカ軍のパトリオット[[ミサイル]]との撃ち合いが繰り広げられました。この戦闘は、両ミサイルの世界的な認知度を高めました。

現在

米ソ間の戦術核ミサイル全廃合意の後、冷戦終結後の西側諸国では、核弾頭搭載SRBMは姿を消しました。しかし、中距離核戦力全廃条約などの対象外の国では、射程500キロメートルを超えるSRBMが、隣国を睨んで配備され続けています。インドとパキスタン、中国と台湾がその代表例です。

核弾頭搭載SRBMを維持する理由は、核技術は保有するものの、ミサイル技術や軍事費の問題で大陸間弾道ミサイルを保有できない場合、あるいは仮想敵国が国境を接する近隣国である場合など、様々です。

また、1980年代以降、北朝鮮を経由したスカッドミサイル技術の拡散も国際的な懸念事項となっています。

主な短距離弾道ミサイル

第二次世界大戦中: V2ロケット（ドイツ）
第二次世界大戦後: PGM-11 レッドストーン、MGM-5 コーポラル、MGM-29 サージェント、MGM-52 ランス、MGM-140 ATACMS|MGM-140_ATACMS（アメリカ）、スカッドミサイル（ソ連）など

関連項目

ミサイル
弾道ミサイル
準中距離弾道ミサイル
中距離弾道ミサイル
大陸間弾道ミサイル
核ミサイル
* ミサイル防衛（MD）

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