石の骨

石の骨

『石の骨』は松本清張による短編小説で、1955年10月に『別冊文藝春秋』に発表され、その後1956年に『風雪』という短編集に収録されました。この作品は、考古学の世界における権威や認知、さらには学問の厳しさについて深く掘り下げています。

あらすじ

物語は、「故宇津木欽造先生記念碑除幕式」に出席した主人公が、学界の元老である水田博士と出会うところから始まります。宇津木先生は一度は名門T大学の教授となりましたが、特定の理由でその地位を失ってしまいました。その根本には、岡崎滋夫の論文審査問題があり、竹中雄一郎教授が主査となり、岡崎の不備な論文を容認するよう求めたことが要因でした。宇津木先生はここで辞表を提出し、学界の厳しさを感じたのです。

主人公は、中学校で考古学を教えていた当時、偶然に海岸で旧象の臼歯の化石を発見します。この発見をきっかけに、主人公は旧石器時代に興味を持ち始め、日本にもその証拠があるのではないかと信じるようになります。彼はその後、海岸の断崖から人間の腰骨の化石を見つけ、それが化石人類の遺骸である可能性があることに気付きます。しかし、この発見が日本の学界に受け入れられることはありませんでした。学界では、その時期の日本には旧石器時代の文化が存在しないとする定説が支配していたからです。

上京した主人公は、T大学の人類学教室を訪れ岡崎博士に鑑定を依頼しますが、博士は後に「旧石器時代の人骨として認定しがたし」という意見を出します。この背景には、岡崎が竹中博士から受けた圧力がありました。竹中博士は学界の権威を保つために、主人公の発見を否定することを求めたのです。

時が経つにつれて、主人公は学界での孤立を深め、数多くの苦難と向き合いながら学問の道を進むことになります。彼は東京に移り、講師としての仕事を得て安定を求めるものの、学界からは「黒瀬の理論は独断すぎる」と冷笑され続けました。そして、第二次世界大戦が勃発し、主人公が所有していた化石標本は空襲で焼失してしまいます。

終戦後、主人公は再び希望を胸に各地を回り続けます。そのとき、T大学の水田博士からの手紙が届きます。かつて発見した腰骨化石のことを思い出す中、主人公は訪問します。すると、水田博士は岡崎博士がかつて持っていた腰骨化石の石膏型を取り出し、研究を進めていたのです。

その後、水田博士は腰骨化石を基に、日本における旧石器時代の人類の遺骨として正式に認定し、学界に発表する意向を示します。主人公の妻、ふみ子が病に倒れていた中、彼女が「石の骨が認められた」という言葉を通じて、作中の主人公は人類学の進展を喜びますが、残念ながらその年に妻を喪ってしまいます。

さらに、腰骨化石が発見された海岸で、頭蓋骨の検出を目指して水田博士が発掘申請を出しますが、主人公は発掘班に加えられることはありませんでした。結局、発掘では有意義な遺物は発見されず、学界の一部は主人公の理論を嘲笑する結果となりました。

モデルとなった人物

本作にはフィクションが含まれており、登場人物は実在の人物を基にしたものですが、設定や時系列は異なります。主人公を黒津、宇津木を鳥居などモデルとする人物が設定されています。著者はこの作品を通じて、学問における権威の問題と、その中での発見の意義を問いかけています。

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