石井・ランシング協定

石井・ランシング協定（いしい・ランシングきょうてい）

石井・ランシング協定は、1917年11月2日にアメリカのワシントンD.C.で日本の特命全権大使である石井菊次郎とアメリカの国務長官ロバート・ランシングの間で結ばれた、いわゆる中国における「特殊利益」に関する協定です。この協定は特殊利益の範囲について、締結当初から解釈の違いがあり、当事者の間でさまざまな議論を巻き起こしました。

協定の概要

発表された文書によれば、協定は以下の主要な内容から成り立っています。
1. 日本が中国大陸において「特殊利益」を持つことを確認する。
2. 中国の独立と領土保全を支持する。
3. 中国における市場の門戸を開放し、機会均等を確保する。

また、協定に付随して秘密協定も存在し、両国が第一次世界大戦の機会を利用して中国で新たな特権を求めないことに同意しています。重要なのは、「特殊利益」という概念の解釈であり、日本側の石井は経済的利益に加え、地理的な近接性から生じる政治的利益も含まれると解釈していたのに対し、アメリカ側のランシングは実体的かつ経済的利益に限ると捉えていました。

協定が発表された際、中国政府はこれに対する反発を示しており、国際的な関係にも影響を与えました。最終的にこの協定は、1922年のワシントン会議で調印された九カ国条約の発効に伴い、1923年に廃棄されました。

交渉の経緯

この協定の交渉は1917年9月6日から開始されましたが、進展は遅々としていました。ランシング国務長官が大統領に提出したメモには、当事者間の応酬についての情報が欠落しており、石井大使の外務大臣への報告もきわめて簡略でした。これにより、当事者間での協議が難航しました。

交渉の過程で、石井はアメリカ大統領ウッドロウ・ウィルソンと会見し、中国における列強による勢力範囲設定が市場の門戸開放を妨げるとして、勢力範囲の撤廃論に共鳴したと言われています。これを受けて石井は、外務大臣の本野一郎らに対して勢力範囲の撤廃を訴えましたが、厳しい反対意見に直面し、結局「勢力範囲」については触れずに「特殊利益」の承認を求める形へと方針が変更されました。

石井は初めて日本側からの原案を提示しようとしたものの、本国に否定されたため、ランシングに原案作成を依頼しました。最終的にランシングが提示した原案は、1915年にアメリカ合衆国国務長官が発表した「ブライアン・ノート」に対する日本の特殊関係を満蒙に限定していた当初の見解から、一歩踏み出したものでした。これが、アメリカの対日融和政策と中国への資本進出の抑制に関連していると考えられています。

日本側の石井は、提出されたランシングの原案に対し、本国の指示に従った範囲で重要な修正を求め、最終的には協定の成立へと結びつきました。協定案は、日本の外交調査会で審議された後、1917年11月2日に正式に発表される運びとなりました。これにより、第一次世界大戦中の国際的な政治状況が一層複雑化しました。

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