石垣カフェ

石垣カフェ：京都大学における学生運動と創造の軌跡

石垣カフェは、2005年に京都大学で繰り広げられた学生運動、およびその過程で生まれたユニークな仮設建造物を指します。この運動は、大学が本部キャンパスの北西端、百万遍交差点に面した石垣を撤去し、歩道を整備する計画を発表したことから始まりました。

石垣を巡る攻防

この石垣は、長年にわたり学生たちが立て看板を設置し、学内イベントや部活動、政治的主張などを発信する場として利用されてきました。そのため、大学の撤去計画に対し、学内からは反対の声が上がりました。しかし、大学側は反対派との対話を拒否し、工事を強行しようとしました。これに対し、学生たちは2005年1月、石垣を占拠し、単管パイプで櫓を建設。物理的に撤去工事を阻止するという手段に出ました。

石垣カフェの誕生

学生たちは、櫓の二階、地上5メートルの高さに「石垣カフェ」をオープンしました。このカフェは24時間営業で、コーヒー、紅茶、ココアなどの飲み物を、採算を度外視した50円という価格で提供。さらに、「石垣缶バッジ」（150円）、「石垣Tシャツ」（1500円）、「石垣絵はがき」（100円）といったオリジナルグッズも販売しました。カフェの天井には無数のチラシが貼られ、壁は片側のみ。中心にはこたつが置かれ、学生や地域住民の交流の場となりました。

当初は奇異な目で見られていた石垣カフェでしたが、次第に百万遍交差点の日常風景として溶け込み、多くの人々が訪れるようになりました。櫓の上でロックコンサートが開かれたり、通りがかりの副学長に節分の豆が投げつけられたり、二次試験の解答速報が絶叫されたりするなど、様々な出来事が起こりました。

いしがき寮の出現

2005年4月には、学生有志が石垣カフェの裏手に単管パイプでできた長屋「いしがき寮」を建設。2畳1間の個室7部屋を、月2万円（後に4000円に値下げ）で入居者を募集しました。京大生や美大生など、約10名が入居し、共同生活を送りました。

大学との合意、そして終焉

工事の遅延を余儀なくされた大学側は、2005年5月に学生側との話し合いに応じました。数回の協議を経て、8月4日、大学側が学生側の提案した折衷案を採用し、学生側がカフェと長屋を自主的に撤去することで合意しました。学生側の提案は、石垣や樹木を保存しつつ、歩行者や車椅子利用者のための「森の小道」を設けるというものでした。

石垣カフェは、最後の3日間、路上ライブ、路上講演会、路上盆踊りなど、様々なイベントを開催し、2005年8月16日、大文字の送り火が消えるのと同時に、「蛍の光」を流しながら閉店しました。

その後

2006年3月31日、大学と学生の合意に基づいた計画の下、本部構内百万遍門の整備工事が完了。「新百万遍門」と側道が完成しました。当時の副学長は、メディアの取材に対し、「有意義な話し合いができ、お互いが納得できる形で決着できたことが非常に良かった」とコメントしています。この出来事は、大学側の「大人の対応」として報道されました。

石垣カフェは、学生たちの自由な発想と行動力、そして大学との対話を通じて、キャンパスに新たな風景を創り出した事例として、記憶されています。

参考文献
篠原雅武「剥き出しの突飛な日常石垣カフェとは何だったのか (特集 マルチチュード) (様々なマルチチュード)」『現代思想』第33巻第12号、青土社、2005年11月、194-204頁
笠木丈「石垣カフェ－遊戯的実践の空間－」『京都大学文学部哲学研究室紀要』第9号、京都大学大学院文学研究科哲学研究室、2006年12月、59-68頁

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