石妖

石妖（せきよう）

石妖は、江戸時代の随筆『中陵漫録』に記述されている妖怪です。豆洲（現在の静岡県）の山中にある石切り場に現れるとされています。

概要

ある日の昼時、石切り場で働いていた石工たちが休憩を取っていました。そこへ一人の女性が現れ、「毎日のお仕事でお疲れでしょう、私が按摩をして差し上げましょう」と声をかけ、一人の石工の肩を揉み始めました。石工は按摩の気持ちよさにうとうとと眠ってしまいます。女性はさらに別の石工にも按摩をすると、たちまち数人の石工が眠り込んでしまいました。

しかし、残りの石工の一人は、この女性が只者ではない、妖怪に違いないと感じ、密かにその場を離れました。そして、出会った猟師に事情を話すと、猟師もまた、その女性は狐狸の類に違いないと言いました。

二人が石切り場に戻ると、女性は二人を見て逃げ出そうとしました。猟師が銃に弾丸を込めて女性を撃つと、女性の姿は消え、その跡には砕け散った石が残されていました。

眠っている石工たちを確認すると、背骨のあたりに石で引っ掻いたような傷ができていました。病気になる危険性もありましたが、家に帰ってから薬で手当てをしたおかげで、どうにか助かったといいます。人々は、あの女性は石の気が化けたものだろうと噂しましたが、その後もその女性はたびたび現れたということです。

解釈

石妖は、労働者の疲労につけこみ、命を奪おうとする存在として描かれています。石切り場という特殊な環境で生まれた、石の精霊のような存在として捉えることもできます。現代社会においても、過労やストレスによって心身を蝕まれる状況は少なくありません。石妖の話は、そうした状況への警鐘とも解釈できるでしょう。

参考文献

柴田宵曲 編『随筆辞典 第4巻 奇談異聞編』東京堂、1961年。
多田克己『幻想世界の住人たち IV 日本編』新紀元社、1990年。ISBN 4-915-14644-8。

関連項目

* 日本の妖怪一覧

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