石川藤八 (7代目)

七代目 石川藤八

七代目石川藤八（1864年 - 1914年）は、愛知県知多郡乙川村の庄屋であり、経営者として知られています。彼は、後に日本の産業を大きく変える発明家、豊田佐吉を支援したことで、その名を知られています。

人物像

七代目石川藤八の出自は必ずしも明確ではありません。戸籍上の父とされる稲生太左衛門との関係や、養母である松本ゑいとの関係など、不明な点が多く残されています。また、出生地についても、戸籍上の亀崎村ではなく、尾鷲であるという説が、藤八家には伝わっています。

彼は、数え15歳で石川藤八家の家督を継ぎ、七代目を名乗りました。公式には石川藤八を名乗っていましたが、私的な手紙などでは本名の松本市松を使用していました。先代である六代目藤八は、隠居後も市松を補佐し、仕事を続けたため、人々は先代を「藤八さん」、七代目を「市松さん」と呼び分けていたようです。

七代目以降も藤八家は男子に恵まれず、八代目、九代目、十代目と、それぞれ西尾、鷲津、亀崎町から養子を迎え、家を維持しました。

藤八家と出機（でばた）織布

石川藤八家は、江戸時代中期から続く乙川村の庄屋でした。村で最も大きな庄屋ではありませんでしたが、年貢米だけでなく、海産物や繊維も扱っていました。特に、幕末から明治期にかけては、出機織布を大規模に手掛けていました。出機織布とは、各家庭に糸を配り、織機で布を織ってもらい、織り上がった綿布を回収する事業です。織機を持たない家には、織機を貸し出すこともありました。

この出機織布を軌道に乗せたのは、六代目藤八でした。七代目もその事業を引き継ぎましたが、効率の悪さを感じていました。出来上がった綿布は、知多郡岡田村の買継問屋に納められていましたが、そこでは最新の織機を導入した大規模な織布工場が経営されていました。しかし、それらの織機は高価で、出機織布には不向きでした。

そのような状況の中、糸繰返機の販売と織機の研究をしていた豊田佐吉が、藤八家を訪れます。藤八は、佐吉に自宅の二階の六畳間を提供し、研究の場を与えました。

乙川綿布合資会社

当初、軽い気持ちで佐吉を住まわせた藤八でしたが、佐吉は昼夜を問わず発明に没頭しました。研究に没頭するあまり、周りのことには無頓着で、藤八家の家人や使用人を気にせず階段を上り下りしていました。しかし、藤八は次第に佐吉の人柄に惹かれ、家人との揉め事を避けるため、佐吉の部屋に直接行ける階段を作るなど、支援を惜しみませんでした。

佐吉の研究は順調に進み、1895年（明治28年）には動力が必要となりました。藤八は、佐吉と共に渥美郡の精米工場へ行き、汽鑵と機械を購入しました。そして、1896年（明治29年）、ついに力織機が完成します。

佐吉が完成させた力織機を見た藤八は、その性能に感銘を受け、6000円の資金と土地建物を準備し、1897年（明治30年）秋、乙川綿布合資会社を設立しました。翌年には工場の操業が始まり、生産された綿布は東京の三井物産の目に留まりました。その品質の高さから、佐吉の発明した豊田式木鉄混製力織機は一躍注目を集めました。藤八は、佐吉の才能を世に出すべきだと考えたのです。

三幅対の仲

佐吉はその後、名古屋市内で工場を拡張し、徐々に成功を収めていきました。藤八は、佐吉の支援に徹し、決して表に出ることはありませんでした。それは、三井物産や三井銀行が佐吉の発明に関心を示したことや、佐吉自身が経営者というより発明家であったことが理由と考えられます。しかし、仕事以外の場では、藤八と佐吉は良き友人でした。

この頃、藤八と佐吉には、もう一人無二の友ができました。それが服部兼三郎です。彼は、苦労の末、名古屋の繊維業界で地位を築き、後に興和紡績を興しました。服部兼三郎を含めた三人は、非常に気が合い、いつも一緒に飲んでいました。その様子から、周りの人々は彼らを「三幅対の仲」と呼んだそうです。

藤八の葬儀

七代目石川藤八は、1914年（大正3年）1月19日に51歳で亡くなりました。葬儀は、藤八家の近くの光照寺で行われ、豊田佐吉夫妻、服部兼三郎夫妻をはじめ、多くの人々が参列しました。葬儀は格式の高い六役葬で行われ、佐吉は雪柳を持つ役、服部兼三郎は蝋燭立を持つ役を務めました。葬儀の香資帳には、香典の額や焼香順位など、詳細な記録が残されています。

佐吉夫妻は、葬儀だけでなく、初七日、満中陰、一周忌、三回忌、七回忌の法要にも参列しました。このことからも、佐吉が藤八にどれほどの恩義を感じていたかがわかります。佐吉は、藤八家へ法事で来る際、人力車を一丁先で降りて歩いたという逸話も残っています。

九代目石川藤八

七代目藤八には跡継ぎとなる男子がいなかったため、佐吉が養子を紹介しました。それが九代目石川藤八となる土屋岩三郎です。九代目は、七代目藤八の娘たきと結婚し、石川家を継ぎました。九代目は、知多織物工業協同組合理事長や半田市議会議員などを務め、地元で名士として知られていました。

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