石田正典

石田正典

日本の洋画家、石田正典は、1915年11月20日に宮崎県で生を受け、2001年3月27日に85歳でその生涯を閉じました。9人兄弟の五男として生まれた彼の幼少期は、父親の仕事の関係で各地を転々としました。

特に石田の若い頃に影を落としたのは、病弱な体質でした。カリエスを患うなど、満足に学校に通うことが困難な日々を送り、結果として1937年に岡山第二中学校を中途退学せざるを得ませんでした。しかし、この困難が彼を絵画の道へと導くきっかけとなります。退学後、彼は小林喜一郎が主宰する「赤坂洋画研究所」の門を叩き、ここで本格的に洋画の基礎と技術を学び始めました。

研究所での熱心な研鑽により画力を高めた石田でしたが、当初は作品発表の場で苦戦を強いられます。特に、二科展では一度も入選を果たすことができませんでした。転機となったのは、同じ研究所に通っていた中田政夫の勧めでした。彼は春陽会への出品を決意し、その挑戦が実を結びます。1941年、念願の春陽会入選を果たしたのです。これ以降、石田は春陽会を主要な作品発表の場とし、意欲的に作品を送り出し続けました。その功績が認められ、1965年には同会の審査員を務めるまでになります。

激動の時代も彼の人生に影響を与えました。1945年の岡山大空襲により、彼の自宅は焼け落ちてしまいます。このため、一家は岡山県津山市へと生活の拠点を移すことになりました。津山での新たな生活が始まった翌年、1946年には見合いで出会った女性と結ばれ、家庭を築きます。津山に移り住んでからの石田は、この土地への深い愛着を育んでいきました。自身の著作やインタビューなどでは、津山市の魅力や風景を度々称賛する発言を残しており、郷土画家としての側面も持ち合わせていました。

創作活動のさらなる飛躍を目指し、石田は海外へも目を向けます。1969年からはおよそ半年にわたりヨーロッパに留学し、本場の芸術に触れ見聞を広めました。しかし、帰国後は一時的なスランプに陥ります。この困難を乗り越えるため、彼は4年後に再びフランスへ渡り、創作への情熱を再燃させました。

帰国後、石田は津山に戻り、後進の育成にも力を注ぐことを決意します。津山市内に「津山洋画研究所」を開設し、未来の画家たちへの指導にあたりました。彼の指導は、単なる技術の伝達に留まりませんでした。「画家はスターではない」「画家は粥と少しの酒が飲めればそれでいい」といった言葉に象徴されるように、画家として生きていくことの厳しさ、経済的な困難、そして芸術への向き合い方といった、実践的かつ哲学的な教えを伝えたと言われています。

晩年、石田は娘が暮らす岡山市山崎へ転居しました。そして、2001年3月27日、脳梗塞のため85歳で永眠しました。

彼の代表的な作品としては、1961年に制作され、現在岡山県立美術館に収蔵されている油彩画『男の像』が挙げられます。この作品は、彼の描く人物像の一端を示すものとして知られています。

石田正典の生涯は、病弱という逆境からの出発、春陽会での確固たる地位確立、戦禍を経ての郷土との繋がり、そして後進育成への情熱に彩られたものでした。小林喜一郎から受け継いだ洋画への情熱を胸に、自身の芸術を探求し続けるとともに、多くの若者たちに画家の道を指し示した存在でした。

もう一度検索