砂川遺跡

埼玉県所沢市に位置する砂川遺跡は、日本の旧石器時代を理解する上で重要な遺跡です。この地からは、当時の人々の生活や技術を示す貴重な石器群が発見されており、遺跡のエリアは所沢市の指定史跡として、また出土品の一部は国の重要文化財（考古資料）として手厚く保護されています。

砂川遺跡は、海抜およそ105メートルの川越台地の端に広がっています。遺跡の南側には柳瀬川が流れ、台地との間には約20メートルの標高差があります。これまでの調査によって、この広範囲にわたる地域から6ヶ所の遺物が見つかる地点が確認されています。特に、1966年には明治大学の考古学研究室、そして1973年には所沢市教育委員会によって、集中的な発掘調査が行われました。これらの調査の結果、旧石器時代後期の、特にナイフ形石器が主に使用されていた時期の石器が数多く出土しました。

砂川遺跡から見つかった石器の assemblage（集まり）は、ナイフ形石器が中心を占めています。その他には、彫刻に用いられたと考えられる彫器や、ナイフ形石器の材料となる縦長の剥片などが出土しています。興味深いのは、狩猟に使われた石槍などがほとんど見られない点で、道具の種類が比較的限定されているという特徴があります。国の重要文化財に指定されている出土品は、これらの代表的な石器類に加え、石器を作る際に生じた石核（剥片を剥ぎ取った残りの石材）や、割れてしまった石器の一部を組み合わせることで元の形を復元できる接合資料など、合計157点（附指定を除く）から構成されています。これらの遺物は、発見された時期や場所によって、第1群と第2群の二つのグループに分類されています。

ナイフ形石器は、旧石器時代において北海道を除いた本州、四国、九州といった日本列島の広範囲で使われていた、代表的な石器の一つです。その用途は多岐にわたり、動物を突き刺したり、肉や皮を切断したりと、様々な作業に用いられた万能な道具だったと考えられています。地域によって形に違いが見られますが、砂川遺跡から出土したナイフ形石器は、関東地方で特に典型的な「茂呂型（もろがた）」に分類されます。このタイプの石器は、まず石核から細長い縦長の剥片を剥がし取り、その剥片の端を斜めに叩いて刃を鈍らせる加工（刃潰し加工）を施し、細身で柳の葉のような形に仕上げるという独特な方法で作られていました。石核や接合資料は、このようなナイフ形石器がどのように作られたのか、その製造工程を具体的に明らかにする上で非常に重要な手がかりとなる遺物です。

砂川遺跡の出土品が持つ学術的な価値は非常に高いと言えます。これらの石器群は、旧石器時代の人々が石器をどのように作り、どのように使い、そしてどのように破損して廃棄したのか、という一連のサイクルを示す情報を含んでいます。また、石器の原材料となる石材がどこから持ち込まれ、加工後にどこへ持ち出されたのかといった痕跡から、当時の人々の活動範囲や集団の移動パターンなどを推測することも可能です。したがって、これらの資料は、旧石器時代に生きた人々の生活様式や居住のあり方、そして道具を持ち運びながら移動していた人々の行動を探る上で、欠くことのできない貴重な文化財です。さらに、関東地方における旧石器時代後期の文化、特にナイフ形石器が中心的な道具として使われていた時期の石器の組み合わせ方や、洗練された製作技術を具体的に示す代表的な例としても、学術的に大きな意義を持っています。

現在、砂川遺跡の史跡エリアは「砂川遺跡都市緑地」として整備されており、市民や来訪者が旧石器時代の歴史に触れることができる場となっています。

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