破獄

概要

『破獄』（はごく）は、日本の作家吉村昭による長編小説です。この作品は1982年から1983年にかけて雑誌『世界』に連載された後、1983年11月に岩波書店より書籍として刊行されました。物語は、実在の脱獄犯である白鳥由栄をモデルにした主人公と、彼を捕まえようとする刑務官たちとの壮絶な攻防を中心に展開します。本作は、小説部門で第36回読売文学賞、文学部門で第35回芸術選奨文部大臣賞を受賞しました。また、1985年と2017年にはテレビドラマとしても映像化されています。

作品は、戦前から戦後の混乱期における日本の刑務所の実情を詳細に描写しており、歴史小説としての側面も持っています。吉村昭は、長年の矯正業務に従事していた元刑務官から得た実際の話を基にして執筆したとされています。『赤い人』と同様に、作品内での会話は少なく、地の文が多いことが特徴です。

あらすじ

物語は、無期懲役の囚人佐久間清太郎を中心に描かれます。彼は、幼少期に両親を失い親戚に育てられ、成長した後は行商から豆腐の店を経営していました。小柄ながらも力強い体格を持ち、脱獄を試みることが常習化している彼の姿が描かれています。刑務官たちは彼の脱獄を防ぐために、あらゆる手段を講じ、彼を厳重に監視します。

佐久間を取り巻く登場人物たちも物語を彩ります。青森県警察の桜井均や、岩手県警察の板橋長右衛門、網走刑務所長の山本銓吉などが彼の逮捕から移送にかけて重要な役割を果たします。それぞれの人物の背景や刑務所の実情が、物語の中で交錯し、リアリティを増しています。特に、佐久間と刑務官たちとの心理的な駆け引きと、緊迫した状況描写は見どころの一つです。

主な登場人物

• - 佐久間 清太郎: 物語の主人公であり、無期懲役の受刑者。小柄だが力強く、脱獄の名手。
• - 桜井 均: 青森県警察の刑事で、佐久間を逮捕した際の重要な人物。
• - 板橋 長右衛門: 岩手県警察の刑事課長。佐久間の移送に関与。
• - 山本 銓吉: 網走刑務所の所長で、佐久間の厳重な管理に努める。
• - 内野 敬太郎: 看守部長として囚人たちの監視を担当。
• - 亀岡 梅太郎: 札幌刑務所の戒護課長で、佐久間を新たに担当。
• - オックスフォード大尉: GHQ軍政部の保安課長、佐久間に対する考えが物語に影響を与える。

受賞歴とドラマ化

『破獄』は、その内容の深さとリアリズムから、多くの文学賞を受賞し、文学界で高く評価されています。1985年にはNHKによってドラマ化され、その後2017年にも再度映像化されています。どちらも主演には著名な俳優が起用されており、作品の持つ緊張感やドラマ性が視聴者に強く印象づけられました。

書籍としての展開

本書は1983年に岩波書店から出版され、改訂版も登場し続けています。また、人気により新潮文庫にも収録され、多くの読者に親しまれています。作品の内容の特性上、登場人物のほとんどは仮名で描かれており、それにまつわる関係者からの情報を基に広がったフィクションとなっています。

結論

『破獄』は、脱獄をテーマにしつつ刑務所制度や人間心理を掘り下げた作品であり、深いメッセージ性を持っています。文学賞を受賞し、映像化されることで、その影響力はさらに大きくなりました。今後も多くの人々に読まれ、語り継がれるべき作品と言えるでしょう。

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