硫砒鉄鉱

硫砒鉄鉱：歴史と性質、そして鉱毒

硫砒鉄鉱(arsenopyrite)は、ヒ素と鉄を主要成分とする硫化鉱物です。その化学組成式はFeAsSで、鉄34.3%、ヒ素46%、硫黄19.7%から構成されます。純粋な硫砒鉄鉱はこれらの比率ですが、鉄の一部はコバルトやニッケルで置換されることがあり、コバルトの割合が多いものはグローコドート鉱へと連続的に変化します。

古くから「毒砂」と呼ばれ、その名が示す通り、硫砒鉄鉱はヒ素の主要な鉱石鉱物として知られてきました。しかし、硫砒鉄鉱自体は毒性を持つわけではありません。危険性を持つのは、風化によって表面に生成・付着する方砒素華などの有害な砒素化合物です。そのため、硫砒鉄鉱を取り扱う際には、素手での接触を避け、取り扱った後は必ず手洗いを行うべきです。

硫砒鉄鉱は、単斜晶系に属するものの、通常は擬斜方晶系の菱餅型または菱形柱状の結晶として産出されます。金属光沢を持ち、色は銀白色から鋼灰色で、灰色や黄色に変色することもあります。モース硬度は5.5～6、比重は5.9～6.2です。柱状のへき開を示し、断口は不平坦です。熱水鉱床やスカルン鉱床に広く分布し、他の硫化鉱物と共存していることが多いのが特徴です。ハンマーで叩くとニンニクに似たヒ素特有の悪臭を放ちます。また、硝酸を加えると分解し、海綿状の硫黄を析出します。空気中の水分と反応して硫酸を生成するため、保存には注意が必要です。

硫砒鉄鉱と亜ヒ酸製造

硫砒[鉄]]鉱の最も重要な用途は、亜ヒ酸]の製造です。[[亜ヒ酸は猛毒である一方で、ガラスのつや消し剤、緑色顔料、農薬、殺虫剤などとして広く利用されてきました。

歴史的には、硫砒鉄鉱を焼成することで亜ヒ酸を得ていました。この方法は「亜ヒ焼き」と呼ばれ、日本各地の鉱山で盛んに行われていました。特に第一次世界大戦後、アメリカでの綿花や家畜用殺虫剤の需要増大を受け、日本各地の金属鉱山では亜ヒ酸生産が本格化しました。

しかし、亜ヒ焼きは非常に危険な作業でした。原始的な焼成炉を用いたため、亜ヒ酸を含む煤煙が周辺に拡散し、深刻な公害を引き起こしました。宮崎県高千穂町土呂久の鉱毒事件はその代表例です。労働者も亜ヒ酸に曝露され、健康被害を受けました。第二次世界大戦後も、防塵マスクなどが導入されましたが、高温環境下では効果が限定的でした。

現在では、製錬工程で発生する煤煙を集塵機で回収し、その塵から亜ヒ酸を回収する方法が主流となっています。亜ヒ焼きによる深刻な鉱害の経験から、安全な方法で亜ヒ酸を得るための技術革新が進みました。

その他の用途と硫砒鉄鉱グループ

亜ヒ酸の製造以外では、硫砒鉄鉱は花火の材料や、鉛と混ぜて弾丸用の合金の原料として用いられることがあります。

硫砒鉄鉱は、グローコドート鉱、オサレス鉱、ルアラサイト、Gudmunditeなどと共に硫砒鉄鉱グループを形成しています。これらの鉱物は、化学組成や結晶構造が類似しており、互いに固溶体を作ることもあります。

硫砒鉄鉱は、その有毒性と歴史的な利用、そして鉱物学的な特徴から、非常に興味深い鉱物と言えるでしょう。その危険性と歴史的背景を理解し、安全に扱うことが重要です。

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