碧雲荘

碧雲荘（へきうんそう）

碧雲荘（へきうんそう）は、かつて野村財閥を率いた実業家、二代目野村徳七によって京都市左京区、南禅寺広大な境内地に築かれた別邸です。その歴史は、徳七が野村銀行（現在のりそな銀行の源流）を設立したのと同じ年の1918年（大正7年）に始まります。以降、約10年の歳月をかけて建築と庭園が整備され、昭和初期の1928年（昭和3年）頃にほぼ現在の姿が完成しました。南禅寺界隈の数ある名建築の中でも、碧雲荘はその規模と芸術性の高さから特に重要な存在として知られており、「野村碧雲荘」とも呼ばれます。

碧雲荘の魅力は、緻密な数寄屋造りの建築と、それを取り囲む美しい庭園にあります。建物の設計には北村捨次郎らが携わり、伝統的な数寄屋造りの高度な技術が随所に凝らされています。一方、広大な敷地に広がる庭園は、近代日本庭園の発展に大きな功績を残した造園家、七代目小川治兵衛（植治）とその長男、保太郎によって手がけられました。彼らの洗練された技によって生み出された庭園は、四季折々の風情を楽しむことができる見事な景観を創り出しています。

邸宅の敷地内には、奈良県明日香村にある酒船石遺跡に関連する遺構と考えられている「出水酒船石」が移設されています。これは、野村徳七が古美術の収集家でもあったことに関連するものかもしれません。

碧雲荘は、その歴史的・文化的価値が認められ、2006年12月19日に国の重要文化財に指定されました。指定の対象には、大玄関や大書院、能舞台、茶室など数寄屋造りの粋を集めた17棟の建築物群に加え、広大な敷地全体（17,339.35m2）が含まれており、石垣や門、塀、敷地内の水路なども一体として保存されています。これは、単なる建物だけでなく、庭園や周辺環境を含めた「邸園」としての価値が評価された結果と言えるでしょう。

碧雲荘の所有権は、築造以来複雑な変遷をたどっています。当初は野村銀行（後の大和銀行）が100%所有していましたが、1994年（平成6年）に大和銀行の資産整理に伴い、所有権の60%が旧野村財閥系列の各社に売却されました。これにより、大和銀行40%、野村證券40%、東京生命10%、野村殖産10%という所有構成となりました。その後、東京生命の破綻によりその持分は野村殖産に移り、野村殖産は20%を保有することになります。さらに2003年（平成15年）には、りそな銀行となった大和銀行が自己保有分の40%を野村證券に譲渡したため、りそな銀行の持分はゼロとなりました。現在では、野村ホールディングスが80%、野村殖産が20%を所有しています。なお、野村殖産は、かつての野村財閥の源流から派生し、不動産などの資産管理を担う企業であり、野村證券や野村ホールディングスとは直接のグループ会社ではありませんが、密接な関係にあります。近隣にある野村美術館も、この野村殖産が管理運営を行っています。

現在、碧雲荘は通常、一般には公開されていません。主に野村證券の特定の顧客層や関係者が利用できる施設となっており、2010年7月にはApple創業者のスティーブ・ジョブズ氏が訪問したことでも知られています。一般の人々が見学できる機会は非常に限られています。2007年（平成19年）以降、約4年に一度のペースで一般向けの見学会が実施されていますが、その募集人数は少なく、例えば2020年（令和2年）の見学会では、わずか90名の募集枠に対して1500名を超える応募があるなど、極めて高い競争率となっています。このことからも、碧雲荘がいかに多くの人々の関心を集める、希少価値の高い文化財であるかが伺えます。

碧雲荘は、日本の近代における実業家の文化活動を示す貴重な遺構であり、最高水準の建築技術と造園技術が集約された芸術作品としても評価されています。国の重要文化財として、その価値を後世に伝えるための適切な保存と管理が進められています。

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