磁励音

磁励音（じれいおん）とは

磁励音とは、交流電動機や変圧器などから発生する騒音を表す言葉として使われていますが、これは技術用語としては一般的ではありません。より正確には、励磁音（れいじおん） や 磁歪音（じわいおん） と呼ばれる現象が、この音の主な原因です。磁励音という用語は、鉄道趣味者の間で使われることが多い俗称です。

励磁音と磁歪音

• - 励磁音: 電気機器における磁気的な励起によって発生する音を指します。
• - 磁歪音: 磁性体が磁場によってわずかに変形する現象（磁歪）によって発生する音を指します。

これらの音は、コイルの鉄心などの磁性体に交流磁界が加えられることで発生します。磁性体は磁界によって微小な伸縮を繰り返し、これが周囲の空気や冷却油を振動させ、結果として音として聞こえるのです。

特に、インバータによってパルス幅変調された電圧波形が印加されるモーターや変圧器からは、変調音（へんちょうおん） と呼ばれる特有の音が発生することがあります。これは、変調方式や変調周波数に起因する周波数成分を含んだ音です。

これらの音を総称して、磁気騒音、磁気音、電磁音などと表現することもあります。

日常で耳にする磁励音

日常で耳にする磁励音の例としては、電柱に設置された柱上トランスから聞こえる「ブーン…」という音や、交流モーターを搭載した電車のモーター音などが挙げられます。これらの音は、磁歪現象によって発生しています。

電源周波数と磁歪音

商用電源に接続された変圧器の場合、入力される周波数は一定です。日本の商用電源周波数である50Hzまたは60Hzの場合、その2倍の周波数である100Hzまたは120Hzを中心とした低い音が特徴です。

一方、インバータで駆動されるモーターから発生する磁歪音は、インバータが発生する電圧波形に含まれる周波数成分に起因する特有の音を発します。

VVVFインバータ制御と磁歪音

特に、VVVFインバータ制御の電車では、モーター内部の鉄心に使われる電磁鋼板の磁歪が主な原因で磁歪音が発生します。かつては、この磁歪音は騒音問題の原因でしたが、近年では技術の進歩により、その抑制が進められています。

GTOサイリスタと磁歪音

以前、電車用の変換素子としてよく使われていたGTOサイリスタは、スイッチング周波数を高くすることが難しく（おおよそ500Hz以下）、モーターから発生する磁歪音が大きいため、静粛性の面で問題がありました。

IGBT素子と磁歪音の抑制

近年では、より高速なスイッチングが可能なIGBT素子（最大スイッチング周波数はおおよそ1000Hz～2000Hz）が登場したことで、磁歪音の抑制が可能になりました。これにより、電車の静粛性は大幅に向上しました。

ただし、モーターに印加する電圧の大きさと基本波周波数（インバータ周波数）は電車の運転状態に応じて最適に調整する必要があるため、VVVFインバータが出力する電圧波形を構成するパルス幅とパルス数は随時変化します。このため、電車の加減速時には時間変化する特有の磁歪音が聞こえることがあります。

補助電源装置の磁歪音

電車に搭載されている補助電源装置（空調や照明などの車内機器に電力供給するインバータ）からも磁歪音が発生します。これらの装置内部にある絶縁変圧器や平滑用リアクトルが磁歪音の原因となります。補助電源装置のインバータ出力周波数は50Hzまたは60Hz固定で、スイッチング周波数は数kHzで固定されているため、発生する磁歪音は時間変化のない一定の音となります。

このように、磁励音は様々な電気機器から発生する現象であり、その発生メカニズムや対策について理解を深めることで、より快適な環境を実現することが可能です。

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