磁気リコネクション

磁気リコネクションとは

磁気リコネクション（Magnetic reconnection）とは、高い電気伝導性を持つプラズマ中で、磁場のトポロジーが再配置され、磁場のエネルギーが運動エネルギーや熱エネルギーに変換される物理過程です。この現象は、宇宙空間における様々な現象、例えば太陽フレアやオーロラの発生、さらには核融合プラズマの制御において重要な役割を果たします。

磁力線の繋ぎ変え

磁気リコネクションは、磁力線が異なる磁区によって区切られている状況において、磁力線の繋ぎ変えが起こることで発生します。この繋ぎ変えにより、磁場の構造が変化し、それまで磁場に蓄えられていたエネルギーが解放されます。

時間スケール

磁気リコネクションが起こる時間スケールは、磁気拡散の時間とアルヴェーン波の伝搬時間の間であると考えられています。しかし、観測されるリコネクションの速度は、理論的な予測よりも非常に速いことが知られており、そのメカニズムは未だ完全には解明されていません。

磁気リコネクションが関わる現象

太陽フレア

太陽フレアは、太陽系で最も大きな爆発現象であり、磁気リコネクションによって莫大なエネルギーが解放されます。太陽の磁束が数分の間に再結合することで、数時間から数日間かけて蓄積された磁場エネルギーが放出されます。

オーロラ

地球の磁気圏における磁気リコネクションは、オーロラの発生に深く関わっています。磁気リコネクションによって加速された粒子が地球大気に衝突し、美しい光のカーテンを作り出します。

核融合プラズマ

実験室では、磁気リコネクションは核融合を制御する上で重要な物理過程であり、核燃料の磁気閉じ込めを妨げる要因となることが知られています。

磁気リコネクションのメカニズム

磁力線のトポロジー

電気伝導性プラズマでは、磁力線は束で場所から別の場所へと繋がっている磁区に分けられます。電流や外部の磁場によって強い変動を受けても、このトポロジーは近似的に保存されます。これは、磁力線のトポロジーの変化を打ち消すように渦電流が生じるためです。

2次元磁気リコネクション

2次元の磁気リコネクションでは、磁区が分離されたseparator reconnectionが典型的です。この場合、磁力線は4つの磁区に分かれ、2つの磁区から磁力線が入り、他の2つの磁区へ磁力線が出ていくという構造になります。

抵抗磁気流体力学 (resistive MHD) 理論

抵抗MHD理論によれば、磁気リコネクションは磁場を支えている電流シート近傍のプラズマ電気抵抗によって起こります。電流シートの電気抵抗が磁束を散逸させ、2つの境界の磁場を相殺します。この結果、プラズマは磁気圧力によって押し出され、磁束が中心領域に入ります。

観測と理論の矛盾

しかし、観測された高ランキスト数 (Lundquist number) のリコネクションが起こる速度は、MHD理論が与える時間と比べて非常に早いことが問題となっています。この矛盾点を説明するために、様々な理論が提唱されています。

磁気リコネクションの理論モデル

スイート・パーカーモデル

スイート・パーカーモデルは、定常的な磁気リコネクションを説明するモデルです。このモデルでは、プラズマの抵抗によって磁力線が散逸し、リコネクションが起こると考えます。

ペチェックモデル

ペチェックモデルは、リコネクションの速度がスイート・パーカーモデルよりも速いことを説明するモデルです。このモデルでは、インフロー領域とアウトフロー領域が遅い磁気音波衝撃波で分かれると考えます。

無衝突リコネクション

イオンの慣性長よりも短い長さスケールでは、イオンは電子と電離し、磁場はプラズマに凍結されます。このスケールでは、ホール効果が重要になり、電子はホイッスラー波により加速されます。無衝突リコネクションは、磁気圏などにおいて重要な役割を果たします。

磁気リコネクションの観測と実験

太陽大気

磁気リコネクションは、太陽フレアやコロナ質量放出など、太陽大気で発生する現象に伴って観測されています。近年では、高解像度の観測により、磁気リコネクションの直接的な証拠も得られています。

地球磁気圏

地球の磁気圏においても、磁気リコネクションは重要な役割を果たしています。クラスターミッションなどの観測により、磁気圏界面や磁気圏尾部でのリコネクションの規模やメカニズムが明らかになってきています。

実験室プラズマ

磁気リコネクションの過程は、プリンストンプラズマ研究所 (PPPL) の Magnetic Reconnection Experiment (MRX) などの実験装置で詳細に研究されています。これらの実験により、様々な条件下での磁気リコネクションの挙動が解明されつつあります。

まとめ

磁気リコネクションは、宇宙空間における様々な現象や核融合プラズマの制御において重要な役割を果たす、複雑で興味深い物理現象です。現在もなお、そのメカニズムの解明に向けて多くの研究が行われています。

参考文献

Eric Priest, Terry Forbes, Magnetic Reconnection, Cambridge University Press 2000
桜井隆他編　『シリーズ現代の天文学10 太陽』　日本評論社、2007年

外部リンク

Magnetism on the Sun
Magnetic Reconnection Experiment (MRX)
* MHD_reconnection （英語） - スカラーペディア百科事典「磁気リコネクション」の項目。

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