礬水

礬水（どうさ、ばんすい、陶砂とも）は、膠（にかわ）とミョウバンを混合した水溶液で、主に書画などに用いる紙や布、木に塗布し、滲み止めとして使われる表面サイズ剤の一種です。この処理により、描画材料が紙などに過度に滲み込むのを防ぎ、作品の品質を向上させる効果があります。

礬水は、特に日本画の制作において重要な役割を果たします。金属箔を基底材に貼り付ける際の接着剤（捨膠）として使用されるほか、箔の表面を保護する目的（止め礬水）にも用いられます。これらの用途において、礬水は作品の耐久性を高め、美しい仕上がりを実現するために不可欠な材料です。

「礬水」という名称は、主に日本国内で使われるもので、書道、日本画、版画などの分野で広く利用されています。礬水引き（塗布）の作業は、天候に左右されることがあり、特に晴天の日が適しているとされています。ミョウバンは、生ミョウバンを用いることが一般的です。

礬水の歴史は古く、西洋でも16世紀頃から洋紙の膠サイズに同様の処方が用いられてきました。ミョウバンは膠サイズに堅牢性と防黴性を与える一方で、酸性であるため、過剰な添加は紙の劣化を早める原因となるため注意が必要です。

化学的な観点から見ると、礬水の滲み止め効果は、ミョウバンの水和アルミニウムイオンが膠の分子を架橋結合させることで膠を硬化させ、基底材の毛細孔を塞ぐことによって得られます。この反応により、描画材料が紙などに過度に吸収されるのを防ぎ、滲みのない美しい描画が可能になります。

日本においては、礬水引きをした和[[紙]]は礬水紙（どうさがみ）と呼ばれ、礬水引きをしていない未加工の和[[紙]]は生紙（きがみ）、生の紙と呼ばれます。また、多湿など保管時の不適切な環境により、紙が斑点状に滲みやすくなるなど変質をきたした状態の紙は風邪引き紙と呼ばれることがあります。これは紙がまるで風邪を引いたかのように見える状態を指しており、適切な保管が重要であることを示唆しています。

礬水は、作品の品質を左右する重要な要素であり、その使用には専門的な知識と技術が求められます。適切な礬水の選択と使用は、作品の長期的な保存にも繋がるため、慎重な取り扱いが必要です。

礬水に関する参考文献は以下の通りです。

礬水液, 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2016年1月8日閲覧.
礬水引き, 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2016年1月8日閲覧.
【技材】膠・ドーサ引きについて　絵具屋三吉・ウエマツ, bixko, 京都造形芸術大学 芸術学部 美術工芸学科ウェブサイト, 2013年7月1日, 2016年1月8日閲覧.
Karen Garlick, A Brief Review of the History of Sizing and Resizing Practices, The Book and Paper Group Annual, Volume Five 1986, The American Institute for Conservation.
Irene Brückle, The Role of Alum in Historical Papermaking, Abbey Newsletter, Volume 17, Number 4, Sep 1993, Abbey Publications.
増田勝彦, 佐野千絵, 川野邊渉, 紙の風邪引き現象の研究, 東京国立文化財研究所, 1994年.
* 石井柏亭, 我が水彩, 日本美術学院, 1913年, p. 13.


関連項目として、サイズ剤があります。

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