礼拝所及び墳墓に関する罪

礼拝所及び墳墓に関する罪（れいはいじょおよびふんぼにかんするつみ）

日本の刑法において、礼拝所及び墳墓に関する罪は、第24章にまとめて規定されている犯罪類型の総称です。これらの罪が保護しようとする法益は、国民の宗教的敬虔な感情や宗教的自由そのものであると解されています。

保護法益と各罪の分類

この章に定められた罪は、その保護法益によって大きく二つに分けられます。

1. 宗教そのものに関する法益の保護
礼拝所不敬罪（刑法第188条第1項）：公然と礼拝所等に対し不敬な行為を行う罪です。
説教等妨害罪（刑法第188条第2項）：説教や礼拝、葬式、儀式または祭祀の場において、これらの妨害を行う罪です。
2. 祭祀の対象である死者に対する敬虔感情の保護
墳墓発掘罪（刑法第189条）：墳墓を発掘する罪です。
死体損壊等罪（刑法第190条）：死体、遺骨、遺髪、または棺に納められた物を損壊、遺棄、または領得する罪です。

なお、同章に規定されている変死者密葬罪（刑法第192条）は、人の死因を明らかにするという司法上または行政上の国家作用を保護法益としており、前述の罪とは性質が異なります。

各罪の概要

礼拝所不敬罪（刑法第188条第1項）

この罪の成立要件は、公然と不敬な行為を行うことです。「公然と」とは、不特定または多数の人が認識できる状況を指します。判例によれば、たとえば午前2時頃に墓碑を押し倒す行為も公然性が認められ、本罪が成立する場合があるとされています。

説教等妨害罪（刑法第188条第2項）

説教や礼拝など、宗教的儀式や祭祀が執り行われている場所で、これらの進行を妨害する行為を罰します。

墳墓発掘罪（刑法第189条）

この罪の対象となる「墳墓」は、現に祭祀礼拝の対象となっているものである必要があります。既に祭祀の対象ではなくなっている古墳などは、この条文における「墳墓」にはあたらないと解されています（判例）。

死体損壊等罪（刑法第190条）

死体、遺骨、遺髪、または棺内に納められた物を損壊したり、遺棄したり、あるいは自己または第三者の占有に移したり（領得）する行為を罰します。死体、遺骨、遺髪、棺内収納物を領得した場合に、これらの財産的価値に着目して別途窃盗罪などの財産罪が成立するかについては議論があります。遺族の所有権や占有を保護すべきとして財産罪の成立を認める説がある一方、法定刑が窃盗罪などよりも軽いのは、所有者の支配力が弱まっている点を考慮しているためであり、別に財産罪を成立させるとその意味がなくなるとする説も存在します。

墳墓発掘死体損壊等罪（刑法第191条）

これは、墳墓発掘罪（第189条）と死体損壊等罪（第190条）が結合した犯罪類型です。

変死者密葬罪（刑法第192条）

変死した者の死因を不明のまま葬る行為を罰します。これは、人の死因を明らかにするための司法検視（刑事訴訟法第229条）または行政検視（昭和33年国家公安委員会規則第3号）といった国家作用を妨害する行為として処罰されるものであり、他の罪とは性質が異なります。

信教の自由と政教分離原則

礼拝所及び墳墓に関する罪は、特定の宗教を保護するものではなく、国民全体の信教の自由を守ることを目的としています。したがって、あらゆる宗教がこの法律の対象となり、特定の宗教を優遇するものではないため、日本国憲法が定める政教分離原則に反するものではないと解釈されています。

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