社会主義と戦争

『社会主義と戦争』とは

1915年にウラジーミル・レーニンによって著された『社会主義と戦争』は、第一次世界大戦の勃発という未曾有の事態を背景に、社会主義運動の進むべき方向性を指し示した重要な著作です。この著作でレーニンは、戦争を単なる国家間の争いとしてではなく、帝国主義という資本主義の最終段階における必然的な現象として捉え、社会主義者が取るべき立場を明確にしました。

執筆の背景

第一次世界大戦勃発前、第二インターナショナルは、戦争を阻止するためにあらゆる努力を尽くし、もし戦争が起こった場合には、その早期終結と資本主義体制の打倒を目指すことを決議していました。しかし、1914年に第一次世界大戦が勃発すると、多くの社会主義政党は自国政府の戦争遂行を支持するという裏切り行為に走ります。この事態を受け、レーニンは第二インターナショナルの指導者たちを激しく批判し、新たな社会主義運動の必要性を痛感しました。

特に、ドイツ社会民主党が軍事公債に賛成したことは、社会主義運動にとって大きな衝撃でした。党内には反戦を主張する勢力も存在しましたが、党の統一を優先した結果、多くの社会主義者が戦争支持へと転じてしまいました。レーニンは、このような状況を「社会排外主義」と呼び、社会主義運動における日和見主義の蔓延を批判しました。

ボリシェヴィキの立場

レーニン率いるボリシェヴィキは、当初から一貫して戦争に反対し、帝国主義戦争を内乱へと転化させることを主張しました。1914年8月には、レーニンが執筆したテーゼ「ヨーロッパ戦争における革命的社会民主主義派の任務」を発表し、戦争の帝国主義的性格を指摘するとともに、社会民主党指導者たちの裏切りを非難しました。また、ロシア社会民主党の任務として、ツァーリズムの打倒と社会主義革命を掲げました。

同年11月には、ボリシェヴィキの中央委員会が「戦争とロシア社会民主党」を発表し、帝国主義戦争の内乱への転化をスローガンとして提起しました。さらに、レーニンは論文「社会主義インタナショナルの現状と任務」において、日和見主義を一掃した第三インターナショナルの創設を提唱しました。

『社会主義と戦争』の内容

この著作は、以下の主要なテーマで構成されています。

社会主義の原則と戦争: 社会主義者は、戦争が国内の階級闘争と密接に関わっていることを理解し、抑圧された階級の戦争を支持するべきだと主張します。また、帝国主義段階に入った現代の戦争は、反動的な性格を持つと断じました。
社会排外主義: 「祖国擁護」という名目で戦争を支持する社会排外主義を批判し、それは社会主義の原則を裏切る行為であると非難しました。また、日和見主義が社会排外主義の温床になっていることを指摘しました。
革命的情勢: 戦争は、大衆の不満を高め、革命的情勢を作り出すと指摘。社会主義者の役割は、大衆の革命的な気分を意識化し、内乱へと導くことであると述べました。
インタナショナルの再建: 第二インターナショナルの崩壊を宣言し、日和見主義者と決別した新しいインターナショナルの必要性を主張しました。また、革命的マルクス主義の旗を掲げ、帝国主義戦争を内乱に変えるというスローガンを提起しました。
ロシアにおける諸階級と諸政党: ロシアの地主階級やブルジョアジーが戦争を支持する一方で、プロレタリアートが国際主義の立場を堅持したことを述べました。また、ボリシェヴィキが他の社会主義勢力とは異なり、戦争に反対する活動を展開したことを強調しました。
ロシア社会民主主義派の分裂: ロシア社会民主労働党の歴史を振り返り、党内の日和見主義との闘いを概観しました。メンシェヴィズムを批判し、ボリシェヴィキの正当性を主張しました。

ツィンメルヴァルド会議と第三インターナショナル

1915年9月、スイスのツィンメルヴァルドで反戦社会主義者の会議が開催されました。レーニンも参加しましたが、会議の決議は日和見主義に対する批判が不十分だと感じました。その後も、レーニンはツィンメルヴァルド運動に限界を感じ、ボリシェヴィキ主導で第三インターナショナルの創設を目指しました。

まとめ

『社会主義と戦争』は、第一次世界大戦という歴史的な転換期において、社会主義運動が直面した課題を明確にし、その進むべき方向性を指し示した重要な著作です。レーニンのこの著作は、後のロシア革命に大きな影響を与え、20世紀の社会主義運動を方向付ける理論的基礎となりました。この著作は、今日の社会においても、帝国主義や戦争の本質を理解し、社会変革を目指す上で重要な示唆を与えてくれます。

この書籍を通じて、レーニンは、戦争を単なる国家間の衝突としてではなく、資本主義の矛盾が露呈した結果であると捉え、社会主義革命の必要性を訴えました。また、社会主義運動における日和見主義の危険性を指摘し、国際的な連帯と革命的な闘争の重要性を強調しました。これらの主張は、後の社会主義運動に大きな影響を与え、今日においてもその意義は失われていません。

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