神よお赦し下さい、それが母親だったとは

『神よお赦し下さい、それが母親だったとは』

フランシスコ・デ・ゴヤによって1797年から1799年にかけて制作された銅版画「神よお赦し下さい、それが母親だったとは」は、彼の代表作であり、80点からなる版画集《ロス・カプリーチョス》（「気まぐれ」を意味する）の一部として位置づけられています。この作品は特に、売春婦をテーマにした風刺的な作品群に属し、ゴヤの鋭い社会批評が色濃く表れています。

この銅版画は、マドリードの街を歩く若く美しい売春婦を描いています。彼女は物乞いの老女に遭遇するものの、その存在を無視して通り過ぎていきます。しかし、その老女はあきらめず、売春婦の後を追います。若い女性は高慢な態度で、片手に持つ半開きの扇子を見つめ、背後にいる老女に振り向くものの、その視線はその母親の姿を全く捉えていません。この無関心さは、彼女が自身の母親を認識していないことを示しています。

ゴヤの作品に対する理解を深める手掛かりとして、ロペス・デ・アラヤの手稿には「母親が物乞いをしていることに気づかない娘たちがいる」と記されており、またスペイン国立図書館所蔵の解説でも「不道徳な理由で売春婦となった娘は、物乞いをしている母親に全く無関心である」とされています。プラド美術館に所蔵されているゴヤ自筆の手稿には、作品の背景にある物語が詳細に語られています。

物語は、この若い女性が故郷を飛び出し、カディスで年季奉公を経て、富を手に入れた後、マドリードへと向かうという流れです。彼女はプラド通りでの散歩の際、無様な姿の物乞いを見つけてその存在を冷たく一蹴しますが、その老女こそが実の母親であるという衝撃の事実が待ち受けています。

この作品が描かれたのは、カルロス3世の時代に近代化が進んだプラド通りにおいて、街の憩いの場であり、男女の逢引きや売春が行われていた時代背景があるでしょう。ゴヤは、若者が売春に身を投じることで貧困から脱し、裕福な生活を手に入れる一方で、親が物乞いを強いられるという現実を冷酷に描写しています。この対比は、多くの美術史家が評価するように、「19世紀の社会派文学のロマン主義小冊子を思わせる」物語性を有しています。

また、題名は、描かれた準備習作の一部から発展しており、母親が公の場で話しかけることを恥じる娘を描いたものです。そのため、この作品は単なる風刺に留まらず、深い感情的衝撃をもたらすものとなっています。ゴヤはこうした題名を下書きの段階で明記しており、その意図を明らかにしています。

最後に、この作品のビジュアル的なインスピレーションは、彼の別の素描から受け継がれており、構図には一貫性がありますが、細部での背景が人物から植物に変更されている点が特筆されます。このように、ゴヤは社会問題を鋭く捉え、視覚芸術に変換する才能を持った画家であったことが、「神よお赦し下さい、それが母親だったとは」を通じて明確に示されています。彼の作品は現在も視覚的かつ情緒的に、観る者に大きな影響を与え続けています。

もう一度検索