神州纐纈城

神州纐纈城（しんしゅうこうけつじょう）

国枝史郎による長編伝奇時代小説であり、作者の死により未完となったものの、その独特な世界観と魅力的な物語で傑作として知られています。プラトン社の雑誌『苦楽』で1925年から連載されました。

概要

『神州纐纈城』は、『苦楽』にて連載が開始されましたが、1926年に未完のまま中断されました。その後、春陽堂から一部を収録したものが刊行されましたが、作者の没後、長らく完全な形では日の目を見ることはありませんでした。1968年に桃源社から初めて完全な形で刊行され、再び注目を集めました。

物語は、『宇治拾遺物語』の一説を基にした伝奇小説で、戦国時代の富士山麓を舞台に、怪人たちが織りなす群像劇が展開されます。土師清二はレオニド・アンドレーエフの『ラザルス』、清水潤はマルセル・シュウォッブの『黄金仮面の王』からの影響を指摘しています。

あらすじ

永禄元年（1558年）、武田信玄の家臣である土屋庄三郎昌春は、謎の老人から真紅の布を買い求めます。その布には、失踪した父の名が記されていました。父の行方を捜す庄三郎は、富士の裾野で血染めの経帷子をまとった騎馬武者の一団と遭遇します。彼らは本栖湖にある水城（纐纈城）の武士たちで、人狩りをしているという。

武田家の宴席で、庄三郎は自身の体験を快川長老に語り、紅巾を見せます。快川は、それが『宇治拾遺物語』に登場する「纐纈」であると指摘します。庄三郎は、父が纐纈城に捕らえられているのではないかと考え、単身で本栖湖へと向かいます。

道中、庄三郎は盗賊や薬師に出会い、役ノ行者の後継を自称する光明優婆塞に率いられた富士教団に遭遇します。しかし、光明優婆塞は盗賊との問答に敗れ教団は崩壊。庄三郎は教団の人々に襲われ、気を失ったまま纐纈城へと漂着します。

一方、庄三郎の出奔を知った武田信玄は、高坂甚太郎に庄三郎の捕縛を命じます。甚太郎は纐纈城を発見し、単身乗り込みます。

纐纈城主は、実は庄三郎の父・庄八郎でした。甚太郎との接触で過去を思い出した庄八郎は、庄三郎と入れ替わりに甲府へ戻ろうとしますが、彼は「奔馬性癩患」という奇病に侵されており、その病を甲府に蔓延させてしまいます。

登場人物

土屋庄三郎昌春: 武田信玄の家臣。父の失踪の謎を追う。
土屋庄八郎昌猛／纐纈城主: 庄三郎の父。奇病に侵され、纐纈城主となる。
土屋主水昌季／光明優婆塞: 庄八郎の弟。富士教団を組織する。
妙: 庄八郎の妻、庄三郎の母。
武田信玄: 甲斐国の戦国大名。
快川長老: 恵林寺の住職。信玄に帰依される名僧。
高坂甚太郎: 高坂弾正の息子。庄三郎を追う。
三合目陶器師（北条内記）: 富士の裾野を根城とする盗賊。
月子: 面作師。造顔手術を行う。
直江蔵人: 薬師。人間の五臓から薬を作る。
塚原卜伝: 天下に知られた剣聖。

用語

奔馬性癩患: 感染力が強く進行の早い架空の奇病。
纐纈: 血染めの布。物語の重要な要素。
五臓丸: 南蛮渡来の妙薬。人間の五臓から作られる。

評価

未完の作品でありながら、その独創的な世界観と魅力的なキャラクターにより、高く評価されています。特に、戦前の怪奇幻想小説のリバイバル・ブームのきっかけとなり、後世の作品に大きな影響を与えました。

影響

多くの作家に影響を与えており、友成純一は『怪物団』、永井豪は『凄ノ王』、田中芳樹は『纐纈城綺譚』を執筆するきっかけになったと語っています。

石川賢によって漫画化もされています。

書誌

『神州纐纈城 前篇』春陽堂〈日本小説文庫〉、1933年。
『神州纐纈城』桃源社、1968年。
その他、講談社、筑摩書房、河出書房新社などから刊行。

外部リンク

『神州纐纈城』：新字新仮名 - 青空文庫

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