神戸市交通局700形電車

神戸市交通局700形電車：昭和を彩った「ロマンスカー」

神戸市交通局700形電車は、1935年から1938年にかけて製造された路面電車車両です。当時、バスや高速電車の台頭により競争が激化する中、神戸市電気局（当時）がサービス向上策の一環として開発しました。

誕生の背景：競争激化とサービス向上への挑戦

昭和初期の神戸市は、バスとの競争に加え、省線電車や阪神・阪急の市内乗り入れにより、路面電車を取り巻く環境は厳しいものでした。神戸市電気局は、これに対抗するため、車両の鋼体化改造やスピードアップ、女性車掌の導入など、様々なサービス向上策を実施。その集大成として、700形が誕生しました。

革新的な技術と豪華な内装：路面電車の常識を覆す

700形は、E車（500形）とI車（531 - 550）からの改造車で構成され、どちらも全長13.6mの大型ボギー車でした。特徴的なのは、当時としては珍しい転換クロスシートや弾性車輪を採用したことです。内装も豪華で、リノリウム張りの床、すずらん灯を模した室内灯、自動ドアなど、国鉄二等車並みの快適さを提供しました。

車体デザインも特徴的で、大型の側窓や緩やかなカーブを描く前面3枚窓は、展望性に優れていました。流行の流線型とは一線を画し、実用性と美しさを兼ね備えたデザインは、後の800形以降の神戸市電スタイルに受け継がれました。

デビューと人気：神戸市電の象徴へ

1935年12月8日に運行を開始した700形は、その斬新な外観と豪華な内装から、「ロマンスカー」の愛称で市民に愛されました。運行開始前には試乗会も実施され、特に弾性車輪の乗り心地と騒音低減効果は参加者を驚かせました。グリーンとベージュのツートンカラーも好評で、700形の登場は、神戸市電が「東洋一」と呼ばれる理由の一つとなりました。

戦禍と復興：激動の時代を生き抜く

しかし、700形の全盛期は長くは続きませんでした。日中戦争の激化により輸送力増強が求められ、クロスシートは撤去されロングシートに改造されました。さらに、太平洋戦争末期の神戸大空襲では、多くの車両が被災し、700形も半数近くが失われました。戦後、700形は復旧され、再び神戸市電の主力として活躍しました。

晩年と保存：その姿を今に伝える

1968年から廃車が始まり、1970年3月に全車廃車となりました。廃車後、一部は漁礁として沈められましたが、705号と708号は保存されることになりました。708号はハーバーランドに移設されましたが、老朽化のため解体。705号は現在、神戸市営地下鉄名谷車両基地に保存され、一般公開日にその姿を見ることができます。

700形電車は、昭和初期の神戸を彩った路面電車であり、その革新的な技術と豪華な内装は、日本の鉄道史においても特筆される存在です。保存されている705号は、その歴史を今に伝える貴重な遺産と言えるでしょう。

もう一度検索