神田日勝

神田日勝（かんだ にっしょう、1937-1970）は、戦後北海道の美術界を代表する画家の一人です。東京で生まれた彼は、幼少期に戦争の激化を避け、家族とともに北海道十勝地方の鹿追町へ疎開し、その後この地で生涯を送ることになります。

生涯と創作活動

神田日勝は1937年、東京市板橋区練馬（現在の東京都練馬区）に生まれました。1945年、第二次世界大戦の戦火を避けるため、7歳の時に一家で北海道鹿追町に移住し、そのまま開拓農家として定住します。中学時代には美術部を創設するなど絵に親しみましたが、卒業後は東京芸術大学に進んだ兄・一明（画家）に代わり、家業である農業を継ぐことになりました。

広大な大地での農作業に従事する傍ら、彼は独学で油絵の制作に取り組み始めます。農閑期を中心に絵筆を握り、地域の公募展である平原社展や全道美術協会展（全道展）に作品を発表。1956年には平原社展に初出品した『痩馬』で朝日奨励賞を受賞するなど、早くからその才能を認められました。1964年からは権威ある独立美術協会展（独立展）にも入選を重ね、北海道内の美術界で確固たる地位を築いていきます。この間、1962年に結婚し、二人の子供をもうけました。

画家として、そして農家として多忙な日々を送る中、神田日勝は腎盂炎を患い、1970年8月25日、敗血症のためわずか32歳で急逝しました。その短い生涯を閉じる直前に全道展に出品された代表作『室内風景』は、彼の没後、大きな注目を集めることとなります。

画風と作品

神田日勝の画歴は決して長くはありませんが、その間に独自のスタイルを確立しました。彼は主にベニヤ板を下地とし、絵の具を厚く盛り上げたり削り取ったりするペインティングナイフを用いた力強いタッチの写実的な絵画を描きました。荒々しくも繊細な筆致で表現される質感や量感は、見る者に強い印象を与えます。農業に従事していた経験から、農耕馬や牛、土塊など、自らの生活に密接に関わるモチーフを多く取り上げました。

代表的な作品には、腹を割かれた牛を描いた衝撃的な『牛』（1964年）、色彩豊かで連作となった『画室』シリーズの最初の作品『画室A』（1966年）、そして絶筆となった『馬（絶筆・未完）』（1970年）などがあります。『馬（絶筆・未完）』は、制作途中で病に倒れたため未完成のままですが、その未完部分がかえって作品に奥行きを与え、神田日勝記念美術館のロゴマークにも採用されています。また、『室内風景』（1970年）は、新聞紙が貼り巡らされた部屋にうずくまる人物を描き、その異様な雰囲気と表現力が没後の彼への評価を決定づけました。

没後の影響とエピソード

神田日勝は生前、「農民画家」と呼ばれることを好まず、「画家である」「農家である」と、それぞれの立場を明確に分けて語っていたとされます。彼の死後、その特異な存在と作品は美術界で再認識され、全国的な評価が高まりました。

故郷である鹿追町には、1993年に鹿追町立神田日勝記念館が開館（後に神田日勝記念美術館と改称）し、多くの作品が収蔵・展示されています。また、彼の命日である8月25日には、美術館で「馬耕忌」と称する追悼行事が行われ、多くのファンや関係者が集まります。

2019年には、NHK連続テレビ小説『なつぞら』において、吉沢亮が演じた登場人物・山田天陽のモデルとされたことで、その生涯と芸術が改めて広く一般に知られることとなりました。これにより美術館を訪れる人も増え、彼の作品への関心は現在も続いています。

短いながらも濃密な画業と、農家として大地と向き合った経験が融合した神田日勝の芸術は、今なお多くの人々を魅了し続けています。

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