神聖ローマ皇帝カール5世 (クラナッハの絵画)

神聖ローマ皇帝カール5世の肖像

ルーカス・クラナッハ（父）によって1533年に制作された油彩画『神聖ローマ皇帝カール5世』は、ルネサンス期の肖像画の傑作として知られています。この作品は、ドイツ・ルネサンスを代表する画家クラナッハが、板上に油彩で描いたものです。しかし、制作にあたり、クラナッハはモデルであるカール5世と直接会う機会がありませんでした。そのため、既存のカール5世の肖像画を手本にしたと考えられています。

作品の背景

クラナッハは、1508年にネーデルラントを旅行中に、まだ子供だったカール5世の肖像を描いたという伝承があります。しかし、この肖像画は現存していません。1547年にはカール5世と面会したものの、この時も肖像画を制作する機会はなかったようです。本作が制作された1532年から1533年頃、クラナッハの工房では、ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ寛大公やマルティン・ルター夫妻など、宗教改革に関わるプロテスタントの人物の肖像画が描かれていました。そのような状況下で、プロテスタントであったクラナッハが、カトリックのカール5世の肖像画を描いたことは注目に値します。

この肖像画が描かれた背景には、1532年の和議によって宗教改革の対立が一時的に中断していたことが挙げられます。カール5世は、フランスやオスマン・トルコとの戦いに備えるため、神聖ローマ帝国内のプロテスタント諸侯からの支援を必要としていました。そのため、彼は一時的にプロテスタントへの弾圧を控えていたのです。この肖像画は、1532年からクラナッハを雇用していたヨハン・フリードリヒ寛大公によって依頼されたと考えられます。

作品の特徴

肖像画では、カール5世が明るい緑色の背景の前に胸像として描かれています。彼が皇帝であることを示すものは、身に着けている金羊毛騎士団の徽章のみです。クラナッハは、カール5世と対面することなく、バルテル・ベーヘムが制作した銅版画などを参考に、特徴的な顎や大きな下唇など、カール5世の顔の特徴を捉えています。

作品の所蔵

現在、『神聖ローマ皇帝カール5世』は、マドリードのティッセン＝ボルネミッサ美術館に所蔵されており、多くの美術愛好家を魅了しています。

参考文献

『クラーナハ展500年後の誘惑』、国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社、2016年刊行　ISBN 978-4-906908-18-9

外部リンク

ティッセン＝ボルネミッサ美術館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『神聖ローマ皇帝カール5世』 （英語）

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